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吹奏楽部のマーチングでもお馴染みの小太鼓(スネアドラム)、音大の打楽器科の実技試験では一般的にティンパニではなくて
小太鼓で実施されることも多いそうです。
スクールバンドの吹奏楽部の場合、基本的には、
打楽器パートは一般的には、ティンパニ奏者を頂点に、大太鼓・小太鼓(スネアドラム)・トムトム・ドラムセット等の太鼓系、
シンバル・サスペンダーシンバル・ドラなどの鳴り物系、
グロッケンシュピール・シロフォーン・ヴィヴラフォン・マリンバ・コンサートチャイム等の鍵盤打楽器系、
そしてタンバリン・トライアングル・カスタネット・マラカス・拍子木などの小物打楽器系、
そして場合によっては和太鼓といった特殊楽器やはたまたピアノなど、
打楽器奏者はマスターすべき楽器が大変多いというのが大きな特徴なのだと思います。
一般的な話で例外も多々あるのかもしれないですけど、音大等の音楽学校打楽器科の入試実技はティンパニではなくて
小太鼓で行われる事が多いようです。
スクールバンドの吹奏楽部の打楽器パートにおいても、打楽器奏法の基本は小太鼓とされていますし、打楽器パートの
日常の基礎練習においては、パート内全員で一斉に小太鼓の撥を持ち、全員で机や練習台に向けて撥を一心不乱に
正確に規則正しく打ち込む事がスタンダートなのだと思います。
小太鼓という打楽器は、直径35~36cmの皮を高さ16~17cm程度の胴の両面に張り、水平に保つかまたは若干奏者側に
やや下げてスタンドに固定し、それを奏者が二本の木の撥で叩きます。
裏面のやや薄い皮スレスレに張られた響き線(スネア)に共鳴してピリピリと鳴らせる事で、小太鼓特有の
ザーー、ザザッ~、ダダダッというパンチの効いた小気味よい音を出していたりもします。
腋のレバー操作によってこの響き線(スネア)を裏面の皮から放す事も可能で、その場合はザザッという打撃音ではなくて
ポコポコとやや乾いた音に変容します。
小太鼓はオーケストラの中ではリズムの先導を取る役割も果たしていますけど、特に吹奏楽のマーチにおけるリズムの切れの
良し悪しは小太鼓のリズム感によって大分変化するようにも感じられますし、管弦楽でもウインナワルツやダンスといった
音楽では絶大な効果が発揮されています。
特に大変盛り上がる場面での小太鼓のロール打ちの威力は半端無いものがあり、それが最大限発揮されるのが
戦争をモチーフにした曲であったり、ストラヴィンスキーの「兵士の物語」やベルクの歌劇「ヴォツェック」などのような兵隊もの
においても終始大活躍を見せてくれていると思います。
小太鼓はジャズ・ロックにも欠かせない楽器ですけど、ロックにおいてはドラムスセットといって小太鼓・トムトム・吊シンバル・
ハイハットシンバルがワンセットとしてロック全体のリズムを華麗にリードしていきます。
小太鼓が大活躍してとにかく目立ってかっこいい管弦楽曲というと、個人的には
プロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」~タイボルトの死とハチャトゥーリアンのバレエ音楽「ガイーヌ」の中から
剣の舞とレスギンカ舞曲を推したいです!
さてさて・・小太鼓が曲の開始から最後までソロ的に大活躍する曲と言うと最も有名であり「この曲以外ありえない!」と
誰しもが納得するのがM.ラヴェルの「ボレロ」だと思います。
限界的極限の小太鼓によるpppの弱奏から開始され、あのワンパターンな単調なリズムを担当楽器の増大・変化と
クレッシェンドのみで延々と15分近くも繰り返し、聴衆を最初からクライマックスのfffの変調とトゥッティまで飽きることなく
導いていき、聴衆を興奮とエクスタシーのるつぼと化してしまう「魔法」といっても過言ではないボレロではあるのですけど、
小太鼓奏者の緊張とプレッシャーは半端無いモノがありますし、この曲に小太鼓奏者が求められるのはテクニックではなくて、
プレッシャーに打ち勝つことができる強い己の内面なのかもしれないです。
ボレロの小太鼓に関して言うと、これ・・多分ですけどCDで聴いた限りでは分かる人は少ないのかもしれないですけど、
この曲の総譜を読み込んだり、はたまた生の演奏に行くと一目瞭然ではありますが、実はボレロの小太鼓は途中から
奏者は2名に増えます。
多分ですけどラヴェルとの意図を分析してみると、曲の後半からどんどん楽器が増え始め、小太鼓1台ではその増量する
音量に埋もれてしまうので、その音量不足の補強という狙いもあるのかもしれないです。
ボレロ以外に実は小太鼓が1台ではなくて2台で叩く楽曲もあったりします。
一例を挙げてみると・・
〇ロッシーニ / 歌劇「どろぼうかささぎ」序曲
この曲の冒頭は2台の小太鼓のロールから開始され、そののびやかなクレッシェンドは聴いていて爽快です!
〇ハチャトゥーリアン / バレエ音楽「ガイーヌ」~レスギンカ舞曲
レスギンカはオーケストラの生の演奏会で見た限りでは小太鼓は1台ですけど、吹奏楽アレンジ版において、
例えば藤田玄播と稲垣卓三のアレンジでは小太鼓は1台ですけど、林紀人アレンジではそれが2台に増強され、
そのうちの1台はリズムに対する合いの手を打つという感じですけど、最近の吹奏楽コンクールではほとんどの演奏では
レスギンカは小太鼓が2台で叩かれる事が多いです。
〇ショスタコーヴィッチ / 交響曲第7番「レニングラード」~第一楽章
第一楽章は、ある意味において、ラヴェルの「ボレロ」を参考にしているようにも感じられます。
小太鼓が終始一定のリズムを叩く中で、オーボエ・ファゴット・フルート・クラリネット等の管楽器のソロを
交えながら徐々に高潮していくスタイルを取っていて、
ボレロをパクったというよりはボレロのコロンブスの卵的なアィディアを新しい感覚で応用したとも言えるのだと思います。
オーボエとファゴットの掛け合いの部分が私的には大変気に入っています。
ボレロの場合、優雅に静かにゆったりと徐々に徐々に盛り上がっていくのですけど、
レニングラードの場合、かなり早い段階から金管セクションが咆哮し、小太鼓もいつの間にか2台目、3台目と加わっていき、
テンポもどんどんヒートアップしていき、最後は破綻するかのように全音で爆発していき、ボレロの部分は終焉を迎えます。
ラストは、小太鼓のボレロのような繰り返しのリズムが弱奏で刻まれる中、
ミュートを付けたトランペットの幾分寂しそうな感じというのか、
「まだまだ戦争は続いている」といった暗示のような感じで静かに閉じられるというのが
ショスタコーヴィッチとしてのリアルティー表現と言えるのかもしれないですね。
ラヴェルのボレロは、最後の最後で、それまで保っていた形式美を崩壊させるといったラヴェルの悪趣味を感じさせてくれます。
ショスタコーヴィッチの場合はそうした悪趣味というよりは、戦時中でないと書けないみたいなリアルティーの方が強いと
感じられます。
〇アーノルド / 序曲「ピータールー」
この曲は静かに開始されるのですけど、途中で小太鼓が乱入し、それが2台に増強されていき、曲も高潮化していきます。
〇ヒナスティラ / バレエ音楽「エスタンシア」~Ⅳ.終幕の踊り(マランボ)
とにかく集団発狂のごとく、2台の小太鼓・テナードラムとピアノのリズムに乗っかり全体がエキサイトにノリノリのダンスを
お披露目していきます。
吹奏楽オリジナル曲としては、フーサの「プラハのための音楽 1968年」の第Ⅲ曲から第Ⅳ曲・トッカータとコラールに
移行する際の2台または3台の小太鼓による凄まじいクレッシェンドのロールで曲想を盛り上げていき、その小太鼓のロールに
乗っかって金管楽器が爆発していきます!
逆に小太鼓の強奏でではなくて弱奏のデリケート極まりない効果的な使用事例として、リムスキー・コルサコフの
交響組曲「シェエラザート」~Ⅲ.王子と王女の物語だと思います。
そして第Ⅳ曲における強奏で小気味よいリズムの切れの小太鼓の扱いとは極めて対照的であり、このあたりは
さすがオーケストラの魔術師の元祖とも言えそうなリムスキー・コルサコフらしい話だと思います。



冒頭で「打楽器奏者はマスターすべき楽器が大変多い」と記しましたけど、それはアニメ「響け! ユーフォニアム」でも
きちんと描かれていました。
一例を挙げてみると、一期と二期において自由曲で大太鼓を担当していた女の子は、二期の駅コンの際には
シンバルを担当していましたし、映画の中においては、トムトム兼小太鼓を担当していました。
一年生からコンクールメンバーに選出される事は大変難易度が高いと思いますが、一般的には
一年生で鍵盤打楽器かトライアングル等の小物、2年生で大太鼓かシンバルでリズムの要を担当し、3年生で
小太鼓またはティンパニという打楽器パートの花形を担当して卒業していくというのが一つのパターンなのかも
しれないですし、3年間でほとんどの打楽器は一度ぐらいは担当する機会がありそうという事で、打楽器パートは
打楽器パートとしての苦労も多いと言えそうです。
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