当ブログの過去記事においては星新一の「殉教」・「処刑」・「はい」・「自信に満ちた生活」などを取り上げさせて
頂いた事がありますけど、
本記事において、コンピューター・人工知能が人間の将来・寿命・結婚相手・職業などまでも
管理してしまう近未来のショートショートに感覚としては近い感じの「生活維持省」という作品について
少しばかり触れてみたいと思います。
星新一の視点というか未来の予見性は、卓越したものを持っているとしか言いようが無く、
とてもこれが1960年代後半~70年代にかけて執筆されたとは思えない程、
過去から現在に対する警告・予知みたいなものにかなり富んでいると思わざるを得ないです。
星新一と言うと、近未来における宇宙人との接触みたいな作品も数多くあり、そうしたイメージのせいで星新一とは
SF的なショートショートみたいなイメージを持たれがちなのかもしれませんけど、
例えば、「はい」とか「生活維持省」などのような
近未来における政府やコンピューターによる国民の管理という事態への警告をパソコンやスーパーコンピューター・人工知能が
世間一般に知れ渡る以前から既に提示していた事は、逆に「怖い」ものすら感じてしまいます。
もしかしたら。星新一自身、1960年代あたりから何かを既に感じていたのかもしれないです。
「ボッコちゃん」の収録された「生活維持省」という作品は、「はい」とは別の意味で感覚が凍り付くような恐ろしさを内在した
作品だと思います。
確かに「はい」も「生活維持省」も大変良く似た感じのテーマを扱っていて、
どちらも近未来における人間の主体性を完全に無視した管理社会の怖さを物語っています。
「はい」においては、1960年代の作品なのですけど、作品の中で物語は2016年と設定されています。
当時としては「まだ先の未来・・・こんな未来はあったら困る・・」みたいな感覚で星新一がこの作品を
書いたかどうかは分かりませんけど、
2022年現在、この地球上で生きている私達の視点でこれらの作品を眺めてみると、
「まだ遠い未来の話なのかもしれないのだけど、マイナンバー制度とか特定秘密防止法とか状況によっては
警察による盗聴的監視が可能とかを見てしまうと、いずれこうした日々管理され、何かと窮屈な雰囲気になる世界
が到来するのも決してありえない話ではない」と感じてしまいますし、
改めて星新一の未来に対する予見の確かな目には脱帽させられるものがあります。
21生気の初めころにやたらと「IT社会の到来」という言葉が躍っていたことがありましたけど、ここ数年はIT社会を
軽く超越した人工知能のとてつもない優秀さと怖さ、可能性的に現在の人間のほとんどの職業を奪ってしまう可能性すら
秘めた人工知能は、もしかすると本当に近未来においてはコンピューターが人間を支配する事にもなりかるない
時代が本当に来るのかもしれないです。
「スター☆トゥインクルプリキュアに登場する羽衣ララの優秀なAIはどちらかというと人間味が濃厚な感じでもありましたけど、
近未来の人工知能は無機質でひたすら合理的な決済しかしないのかもしれないですルン・・

「はい」という作品は近未来のコンピューターによる人類に対する管理をテーマにし、
「人の死」という本来人間の尊厳に最も関わる事ですらもコンピューターによる管理がなされている点に
ある意味怖さを感じるのですけど
それに対して、「生活維持省」の方は、政府による寿命統制というのか人口管理が公然と行われている事の悲劇と皮肉を描いた
作品です。
この「生活維持省」の概要を下記に簡単に記すと・・・
近未来―――戦争も貧困もなくなった世界が舞台となっています。
物語に登場する二人組は近未来の「生活維持省」という政府機関に属する列記とした公務員であり、
仕事に邁進する日々を過ごしています。
しかし、二人を見つめる周囲の人たちの視線は冷たく、なぜなら二人は国家から任命された公務員としての死神だからです。
二人は上司から提示されたカードを日々受取り、そのカードのリストにある家を日々訪問し、
「ある事」をしてきます・・
ある日、いつものように自然に囲まれたのどかな風景のとある家を訪れます。
二人が訪れたことを知ると、その家の奥さんは「あ・・死神」と失神します。
二人には役割があったのです・・
この「生活維持省」という世界観においては、政府の方針とは徹底した人口制限を速やかに実行し、
毎日コンピュータで年齢・性別・職業に関係なく完全に公平に選抜した者を殺処分するという事が政府の根幹的な政策であり、
二人はその業務を遂行する執行官だったのでした。
そして、その家のまだうら若き少女は二人が放った光線銃で短い生涯を閉じる事になります。
その少女の次の執行対象者は実はその二人組の内の一人だったのです。
だけどその一人は特に動揺する事も無く、「悪いね・・・君一人で帰らせることになっちゃって・・」
「こんな平和な時代にこれだけ生きられて幸せだった」と呟くシーンでこの物語は閉じられます。
感想としては「はい」よりは後味は思いっきり悪いです。
「はい」の場合は、どこかしらありえない未来の寓話みたいな雰囲気も幾分漂ってはいるのですけど
「生活防衛省」の場合は、政府による人間の寿命を管理しているという事もあるのですけど
決してありえない話ではないという感じがするのがその一因なのかもしれないです。
それに近いような事は、例えとしてはあまり良くないでけど。
例えばナチスによるユダヤ人大虐殺とかソ連のスターリンによる大量粛清などに代表されるように
人が人の死を粛清という名のもとに行ってきて事も確かにあります。
それらは確かに戦時中という言わば特殊な背景があったのかもしれませんけど、
近未来においては、平時においてもこうした政府による一種の人口統制が行われてしまう可能性が
全くゼロではないと思わせてしまう辺りが管理国家としての怖さを感じさせてくれていると思います。
星新一がこの作品を書きあげたのは1960年代から70年代初めだったと思いますが、興味深いと感じたのは、
当時の星新一の視点から眺めてみると、
世界秩序崩壊とか公害・財政破綻・戦争等の主要因の一つを世界人口の爆発的増加として捉えている点だと思います。
現在でしたら、「世の中金さえあれば何でもできる」といったモラルの低下の方をあげたくなりそうです。
星新一がこの作品を描いていた頃の世界人口は、私が1980年代初めに受けた中学の授業では
世界人口は約45億と習った記憶があるのですけど、2021年現在の世界の人口は約76億に達しています。
世界中においては、毎年6千万人が亡くなり、1億3千万人が産まれます。
そしてその間にもどんどん貧富の拡大、地球温暖化などが進行し、問題は山積みです。
石油の枯渇が近づき、表土と森が失われています。
水と食料が、病院と学校が不足しています。
人間の豊かな生活が、太陽と地球からの恵みを超えそうな勢いといっても過言ではないと思います。
そうした観点では世界の人口増加は人類にとって早急に取り組まないといけない課題の一つだと思います。
ユートピア論的に言ってしまうと、富める国が貧しい国に対して手を差し伸べ、
「地球の資源は全て平等、誰か一人のものでもないし、特定の国家の所有物でも無い」という意識を
全人類が共有理念として持ち、「お互いに分かち合う」という事を徹底し、
各国家が責任をもってその国の人口を増えもせず減りもせずという方向に持っていきましょうという事を遵守出来れば
何の苦労も無いのですけど、それが歴史上全く出来ない事に人類の無能さが垣間見え、
過去の歴史の教訓が全く生かされないいつまでたっても進化できない愚かさがあると思います。
星新一の「生活維持省」の場合、人口増加を悪の根源として捉えている面もあると思いますが、
そうした人口増加の対処方法として、人間が人間の寿命を管理コントロールし、本来は神の領域なのかもしれない人口管理
という問題を人間が当事者として行っている事の矛盾を激しく問うているようにも感じらます。
確かに主人公の二人組が言うように、
「こうした静かな環境・・豊かな生活を維持するには適正人口の維持が必要不可欠」と言うのは分かります・・・
それを人間が人間に対して行うというのは果たしていかがなものでしょうか・・
これは何となくですけど、人間が踏み越えてはいけない領域のような気がします。
それが出来るものは「神のみぞ」と言いたい所ですけど、この言葉は精神的無神論者が多い日本人にはあまり合わない
ワードなのかもしれないです。
人工知能や政府機関が人口統制というか人の死すらも管理してしまう未来と言うものは相当恐ろしいものがありそうです。
人を人たらしめているものは「主体性」に他ならず、「私はこうしたい!」という気持ちなのだと思います。
例え結果的にうまくいかなかったにせよ、「その行為を決断したのは私自身なのだ!」という自由な決断が、その主体性こそが
人間」なのかもしれないです。
人の死は確かに避けては通れませんし、人は必ずいつかは死ぬものです。
だけどそれを人工知能や政府機関が勝手に決めてしまう未来が本当にあるとするならば、
そうした未来は決してバラ色とは言えないのかもしれないです・・
もっとも星新一がこうしたショートショートを書いた約50年後の日本は、人口減少という問題に直面していますし、
同時に「超高齢化社会」に既に突入しています。
星新一はその作品の中で何度か人口増加を結構テーマにしていますけど、超高齢化社会はほとんどネタにしていなかった
ような気もします。
星新一自身もここまでそうした少子高齢化社会が短期間で進むとはさすがに予見は出来なかったのかもしれないです・・
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