モートン・グールドというアメリカの作曲家は、どちらかと言うと私のような吹奏楽経験者の方が馴染みがあるのかも
しれないです。
グールドというとどこかで聴いたことがあるようなメロディ・・というと「アメリカン・サリュート」がそうなのしれないですけど、
日本で実はいっちば~ん!親しまれているグールドの音楽というのは
テレビ朝日系の「日曜洋画劇場」のエンディングテーマ曲として放送開始(1966年10月)から
2003年9月まで長らく流され続けていたグールド自身の編曲・ピアノ・指揮による「ソー・イン・ラヴ」のような気もします。
モートン・グールドは、クラシック音楽の作曲家という位置づけなのかもしれないですけど、多彩な才能があり、
映画音楽・バレエ音楽・ジャズ・ミュージカルなど多くの分野で作品を残されていて、
作曲家としての顔を有しながらも指揮者としての顔も有しており、RCAレコードに膨大な録音が残されています。
モートン・グールドはコープランドとほぼ同じ時期に活動されていましたけど、
かなり長生きされていて亡くなったのは1996年です。
しかも現役バリバリだったようで、亡くなる翌日すらも元々ディズニーのイベントの指揮を振る予定だったとの事です。
私が高校生ぐらいの頃、吹奏楽やクラシック音楽等について全然何も知らず詳しくも無かった頃、
モートン・グールドとピアノ奏者としてあまりにも著名なグレン・グールドと完璧に混同していて
「ジェリコの作曲者って有名なピアノ奏者の人でもあるの・・?」ととんちんかんな質問をしては
先輩から「おまえ、バッカじゃないの・・!?」と言われていたものです・・(汗)
吹奏楽経験者に限って言うと、モートン・グールドの知名度はグンと跳ね上がるように思えます。
グールドの吹奏楽作品というと、どんな曲が挙げられるのかと言うと、
〇サンタ・フェ・サガ
〇狂詩曲「ジェリコ」
〇吹奏楽のためのバラード
〇ウエストポイント交響曲
〇カウボーイ・ラプソディ
〇アメリカンサリュート~ジョニーが凱旋する時のテーマによる
あたりが有名でしょうし、狂詩曲「ジェリコ」は現在でも吹奏楽コンクールで時折耳にすることもありますし、
根強い人気はあるのかもしれません。
モートン・グールドの吹奏楽曲というと、特に強い人気があるのはアメリカンサリュート・ジェリコ・サンタ・フェ・サガだと
思われますけど、その中でも特に狂詩曲「ジェリコ」は群を抜いていると言えるのかもしれないです。
現役奏者の皆様ですと、「ジェリコ」というとアッペルモント作曲の作品を思い出される方も多いとは思うのですけど、
私みたいな昭和の頃に現役奏者だったオールド吹奏楽世代ですと、
「ジェリコというとグールドじゃん!」とついつい力んでしまいそうです・・(汗)
狂詩曲「ジェリコ」の元ネタは実は旧約聖書です。
「モーセの後継者ヨシュアはジェリコの街を占領しようとしたが、ジェリコの人々は城門を堅く閉ざし、
誰も出入りすることができなかった。主の言葉に従い、イスラエルの民が契約の箱を担いで7日間城壁の周りを廻り、
角笛を吹くと、その巨大なジェリコの城壁が崩れた」というヨシュア記6章のお話が曲のベースになっていると
思われます。
狂詩曲「ジェリコ」はとにかく壮大なスケールの音楽です!
木管セクションによるとてつもなく甲高い響きから開始されるという雄大なプロローグに始まり、
ラッパ作戦・ジェリコの城壁崩壊へと展開され、最後は圧倒的な賛歌で終わるのですけど、
ここにあるのは大変イメージがしやすくて分かりやすい音楽と言う事なのだと思います。
一番分かりやすいのは言うまでもなくこの曲の最大の白眉で聴かせどころの城壁崩壊シーンなのですけど、
あのとてつもない爆音の打楽器と金管セクションによる音楽物語は、旧約聖書のストーリーを全然知らなくても
「なにかとてつもなく巨大なものが壊れていく・・」という具体的なイメージを間違いなく聴いている人の脳に伝えている事が
出来ていると思われます。
最初に私自身、とある市の音楽祭の合同バンドによるジェリコの全曲を初めて生演奏で聴いた時は、あの城壁崩壊シーンの
音楽的迫力と打楽器セクションの視覚的効果と空間の振動には、あまりの衝撃に呆気にとられて
完全に言葉を失ったほどでもありました。
城壁の周囲で角笛を吹くまくるというラッパ作戦におけるトランペットセクションによる凄まじい進軍ファンファーレ的なものも
あまりにもそのものズバリというのか
「音楽というものはこんなにも分かりやすく具体的な場面をイメージさせることも出来るものなのだ!」という事を
見事に聴衆に伝えていると感じられます。
(そうした場面場面を具体的に音楽としてストーリー的に表現している曲の一つがアーノルドの序曲「ピータールー」
なのだと思えます)
狂詩曲「ジェリコ」というと、私よりも一廻り上以上のベリーオールドファンの皆様ですと、真っ先に
1969年の出雲一中を挙げられると思います。
そしてもっと上の世代の皆様ですと泉庄右衛門先生指揮の天王寺商業を挙げられるのかもしれないですね・・
出雲一中のジェリコは、中学生とは到底思えないあまりにも素晴らしすぎる演奏でしたけど、
あの演奏って、当時は、今現在の金銀銅のグループ表彰ではなくて一位~三位といった順位制度を採用していますが、
出雲一中の演奏が3位というのは、「そりゃないでしょ! あれは誰がどう聴いても1位であり、
今津のローマの謝肉祭や豊島のエルザより順位が低いなんて絶対にあり得ない!
ありゃ・・絶対審査員は居眠りしていたか、よっぼど耳がポンコツなのかどちらか一つだね・・・」
と私は今でも確信しています。
この年の今津・豊島第十・出雲第一の演奏は幸いな事にレコード化されていますので、
私の言うことが「本当かよ・・」と思われる方は是非あのレコードを聴いて欲しいなと思ったりもします。
だけど出雲一中のジェリコは、城壁崩壊の前の場面のトランペットによる勇壮な部分が全てカットされていて、
あのシーンも是非聴いてみたかったな・・と思ったりもしますけど、あの年の課題曲は「ふるさとの情景」というどちらかというと
長い課題曲の年でもありましたので、時間制約上難しかったのと、いくら巧いといっても中学生には
あのトランペットの勇壮な部分は技術的にも体力的にも厳しいものはあったのかもしれないですね。
そういう意味においては、プロの演奏も含めて、過去の吹奏楽コンクールの演奏でも
意外と狂詩曲「ジェリコ」の「これが決定的名演」といういわゆる名演が未だに出てこないみたいな感じもあったりします。
多くの皆様はジェリコの名演というとイーストマン・広島ウインド・1969年の出雲第一中学校などを挙げられると
思うのですけど、私にとっての現時点でのジェリコの史上最強の名演というと
1977年の神奈川大学の演奏が今の所、私にとってはいっちば~ん!なのだと思います!
残念ながら、この年の神奈川大学の演奏は、レコード音源がありませんし、
知る人ぞ知る幻の名演みたいになっているのは極めて残念なのですけど、
金管セクションの強烈なリズム感や例の城壁が壊れるシーンの打楽器の大活躍ぶりとか
埋もれてしまうにはあまりにも惜しまれる隠れた名演です。
特に神奈川大学のトランペットセクションとスネアドラム奏者の技術力の高さは素晴らしいと思います。
この時の演奏は、まだ小澤先生が赴任される前の演奏なのですけど、
小澤先生が赴任される前に既に神奈川大学吹奏楽部は
相当のレベルに達していたものと推察されるような演奏なのだと思います。
神奈川大学吹奏楽部は、大学部門においては古今東西圧倒的にNo.1みたいな立ち位置にいると
思いますし、それを実現化した小澤先生の功績はあまりにも偉大過ぎると思いますが、
小澤先生が来られる前においても、77年のジェリコとか
1973年のパーシケッティーの「吹奏楽のための仮面舞踏会」といった歴史に完全に埋もれてしまってはいるけど、
すっかり忘れられてしまった影の名演も実はこんなにもあるんだなぁと改めて感じたものでした。
冒頭で「アメリカン・サリュート」の話が出ましたので、最後にこの曲についても触れさせて頂きたいと思います。
アメリカン・サリュートとは直訳でアメリカ式の敬礼とかアメリカの挨拶という意味なのだと思います。
全体的には大変力強いアメリカの軍隊をイメージしたであろう活発な行進曲となっています。
作曲された当時のアメリカは第二次世界大戦の真っ只中のアメリカという事もありますので、雰囲気的には
アメリカ軍兵士の士気を鼓舞し「日本軍を叩きのめしてしまえ~!」という感じなのかもしれないですけど、
日本人としてはちょっと複雑なのかもしれないですね・・
でもこの曲は演奏会や吹奏楽コンクールでも時折聴く事がありますし、例えば1994年の課題曲があまりにも異様に長い年の
自由曲として、4分程度の曲ということで制限時間内に収まりやすいということで例年よりは多く取り上げられているような
年もありました。
サブタイトルには「ジョニーが凱旋するとき」とありますが、
これはアイルランド出身のアメリカ人パトリック・ギルモアという人が南北戦争時代に北軍の帰還を迎えるために作られた曲で、
現在のアメリカでも大変人気の曲だそうです。
アメリカンサリュートはマーチですが、奏した意味では、「ジョニーが凱旋するとき」のメロディの変奏曲ともいえそうです。
グールドのアメリカン・サリュートは映画でも時折BGMとして効果的に使用されていて、
多分それが「どこかで聴いたことがあるような・・」という感覚に繋がっているのかもしれないです。
例えば、「第十七捕虜収容所」(1953)や「西部開拓史」(1962)、「博士の異常な愛情」(1964)などで使用され、
近年では「ダイ・ハード3」でも使用されていました。
曲は、8分の12拍子の激しい前奏から始まり、最初にファゴットで主題が提示された後に各種変奏が華麗に鳴り響き、
ラストの最終変奏~コーダに至るまで心地よい緊張感と圧倒的なスピーディーぶりで駆け抜けていきます。
アメリカの挨拶というとなんとなく行進曲「星条旗よ、永遠なれ」という感じもありそうですけど、グールドの
「アメリカン・サリュート~ジョニーが凱旋するときのテーマによる」も一つのアメリカ式挨拶なのかもしれないですね~♪
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この曲の吹奏楽コンクールでの決定的名演はたぶんまだ出ていないのかもしれないので、今後の名演の出現に期待したいと
思います。