伊藤康英 / 吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」 → 「隠れキリシタン」をモチーフにしたとてつもないエネルギーを秘めた後世にずっと受け継いでいきたい素晴らしい名曲です!

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伊藤康英の吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」は大変スケールが大きく
エネルギッシュな名作だと思います。
そしてこの曲は今後もずっと演奏され続けて欲しい後世に受け継がれていって欲しい素晴らしい名曲の一つだと思います。
この曲は過去に何度も吹奏楽コンクールの支部大会・全国大会でも演奏され
吹奏楽オリジナル邦人作品の一つの大変な成功事例としての評価は既に定着していると思います。
この曲の「熱さ」・「エネルギッシュさ」は大変なものがあり、
特に全曲を通して聴く場合は、中途半端な気持ちで聴くことは出来ない何か作曲者の真剣な意図が ひしひしと伝わってきます。
管弦楽アレンジ版として吹奏楽から管弦楽に作曲者自身によって編曲され、管弦楽版として演奏されたこともあります。
吹奏楽曲が管弦楽曲にアレンジされた事例って実はそれほど多い訳ではなく、
この「ぐるりよざ」の他には、私が知る限りでは、
フーサの「プラハのための音楽1968」と「この地球を神と崇める」とか、ヴォーン・ウィリアムズのイギリス民謡組曲とか
ミヨーのフランス組曲など決して多い事例ではないだけに、それだけ「ぐるりよざ」の演奏価値が高いと
認められた一つの証しなのかもしれないですね。

今年・・、2018年の6月にユネスコの世界文化遺産登録委員会より「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が
世界文化遺産に登録がされていましたけど、このいわゆる「隠れキリシタン」をモチーフにした曲こそが
この吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」なのです。

この曲は、1989年から1990年にかけて、海上自衛隊佐世保音楽隊の岩下章二の委嘱により作曲され、
鎖国時代の長崎の隠れキリシタンの文化に着想を得て、
隠れキリシタンに歌い継がれた音楽をベースにしながら独創的なこの音楽を創り上げていきます。
また委嘱者の注文を踏まえ、第2楽章に「龍笛」という極めて珍しい雅楽の楽器を使用しているのも大きな特徴ですね。
題名の「ぐるりよざ」は、長崎生月島に伝わるキリスト教の聖歌"Gloriosa"が訛った言葉なのですけど、
先祖代々「グレゴリア聖歌」として歌い継がれていく過程の中で
グレゴリオ聖歌の一つ「グロリオーザ」→「ぐろりおざ→「ぐるりよざ」」と言葉として
変容していったと言えるのだと思います。
先祖代々受け継がれてきた「隠れキリシタン」としての苦悩・誇り・「ばれたらどうしよう・・・」みたいな
焦燥感と危機感が曲の隅々にまで感じられ、決して楽な気持ちで聴くことは出来ない曲なのですけど
その「壮大なスケール」は是非一度耳にして欲しい大変な名作であり大変な力作であると感じます。

吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」は以下の三つの楽章より構成されています。

Ⅰ.祈り

Ⅱ.唱

Ⅲ.祭り

第一楽章の「祈り」は敬虔な祈りの音楽です。
冒頭部分は、コンサートチャイム・ヴィヴラフォーン等の鍵盤打楽器から静かに開始され、それに乗っかる形で
パストロンボーンとユーフォニアムがグレゴリオ聖歌を奏で、
更に「男声コーラス」が聖歌を歌い上げていきます。
(作曲者の指示で、コーラスを入れる事が不可能な場合はカットしても良いとの事です、ちなみにですけど
伊藤先生の見解としては、コーラスのカットは仕方がないが、男性奏者がいない場合等の女声コーラス・混声合唱は
あまり望ましくはないと指示されています)
中間部で激しいリズムの反復を経て、かなりヒステリックな木管の高音による絶叫の後、静かに閉じられていきます・・・

あの「絶叫」は一体何を示唆しているのでしょうか・・?

拷問・弾圧の恐怖なのか、それとも実際の弾圧による悲鳴なのか・・・・

とにかくとてつもなく重たい楽章です。

第二楽章は、冒頭で「龍笛」という雅楽の楽器が使用されています。
音の不安定感がなんか一層隠れキリシタンの人達の未来を暗示しているような気もしますけど、途中でホルンが
「あー、参ろうか、参ろうか、パライソの寺に参ろうか」という「さんじゅあん様のうた」というメロディーを高らかに吹き上げますけど
この部分は、弾圧にもめげない民衆の土俗的パワーみたいなものを感じます。
そしてこのホロンの勇猛なメロディーは、第三楽章のラストのすさまじいエネルギーの中で高らかに再現されていきます。
第二楽章自体のラストは、魚板による「床への叩き付け」というすさまじい一撃で唐突に閉じられます。

第三楽章は、第一~第二楽章での抑圧された鬱憤を全て吹き飛ばすかのような
エネルギッシュで豪快な音楽ですし、全曲中最大の聴かせ所であり全体の白眉です。
この楽章で有名な長崎民謡「長崎ぶらぶら節」が分かり易い形でかなり執拗に引用されているのが大きな特徴です。
第三楽章はA-B-Aというシンプルな構成を取り
Aではこの「長崎ぶらぶら節」をメインテーマとして展開され、Bのしっとりとした感動的な歌が展開され
Aの再現部では、
この「長崎ぶらぶら節」と第二楽章で出てきた「さんじゅりあん様のうた」が見事に融合され
最後はすさまじい大音量とエネルギーのコラールで閉じられていきます。
全体的には西洋のグレゴリオ聖歌と日本の民謡が一体・融合化した大変魅力的な作品だと思います。

作曲者の伊藤康英先生は九州の方かと思っていたのですけど、実は静岡県浜松市が出身との事です。
伊藤康英先生というと、吹奏楽コンクールにお詳しい方だとピンとくると思いますが
長い間筑波大学吹奏楽団の指揮者を務められていて、その自由曲の選曲が
ネリベル/二つの交響的断章 アイヴズ/カントリーバンドマーチ シェーンベルク/主題と変奏
ミヨー/フランス組曲 ヒンデミット/吹奏楽のための交響曲などという
ウルトラ級のマニア好みの選曲をされていたのは、本当に嬉しい限りでした。
伊藤康英先生は一度だけ全国大会に出場され、その時の自由曲は残念ながら自作自演とはなりませんでしたが、
矢代秋雄の交響曲をかなり精密に細かく聴かせていたのが印象的でした。

伊藤康英の吹奏楽作品ってかなり膨大なものがあるのですけど

特に・・・・

〇吹奏楽のための抒情的「祭」

〇北海変奏曲

〇未完のオペラへの間奏曲

〇吹奏楽のための交響的典礼

〇台湾狂詩曲

〇交響的断章「時の逝く」

〇ユーフォニアムと吹奏楽のための幻想的変奏曲

〇組曲「相馬三景」 ~ Ⅰ.ファンファーレ、Ⅱ.新相馬節、Ⅲ.相馬フェスティバルマーチ

〇浜松序曲 浜松市民のための三つのファンファーレ マーチ「浜松」 といったご当地オリジナル作品

などの作品が極めて印象的です。
二楽章から構成される「交響曲」もかなり魅力的な作品だと思いますし、ちなみにこの曲の初演は私も聴いていました~!
1996年には全本吹奏楽コンクールの課題曲Ⅰ/ 吹奏楽のためのソナタも作曲されていますけど、私自身はこの課題曲は、
苦手と言うか嫌いな課題曲の一つです・・(汗)

吹奏楽のための「ぐるりよざ」ですけど、プロの演奏では圧倒的に小田野宏之指揮/東京佼成W.Oが素晴らしいです!!
吹奏楽コンクールの演奏としては
1992年の習志野ウインドオーケストラが素晴らしい演奏を聴かせてくれています。
(ⅠとⅢから構成されたカットなのですけど、このカット方法がとても自然で、音楽的な連続性と統一感を伝えているのは
巧いと思います)
極めてローカルな話ですけど、山梨県・敷島中で数多くの名演を残した大島先生が
山梨県のB部門時代に笛川中で聴かせてくれた関東大会の「ぐるりよざ」の演奏はかなり印象的です。
第二と第三楽章から抜粋し、第三楽章ではエネルギー不足のため、かなりヘロヘロな演奏になってしまいましたけど、
第三楽章冒頭の鋭い切れ味と第二楽章ラストで魚板をステージ床に「ガツン」と叩き付けた衝撃音のすさまじさは
かなりインパクトがありました。

最後に・・
吹奏楽コンクールなのですけど、現在の規定においては原則として「声」の使用は限定条件ですけど
使用する事自体は可能です。但しコーラスとか歌唱のように歌詞を伴うのは不可です。
歌詞を伴わないいわゆる「スキャット」であれば声の使用はOKとなっています。

あれれ・・そうなるとぐるりよざの第一楽章冒頭部分は歌詞が伴っているから、この曲の第一楽章冒頭の演奏は
コンクール既定としてはNGと言う事で失格になってしまうのですね!
それが原因でこの曲が吹奏楽コンクールで演奏されないとするならば、それはちょいと残念な話ですね・・
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