黛敏郎(ウィットカム編曲) / 映画音楽「天地創造」~ノアの方舟・メインテーマ → 広大なスケール感漂う素晴らしい音楽だと思いますし、吹奏楽アレンジ版では、兵庫県の三木中学校の素晴らしい名演が残されています! ついでに「舞楽」(BUGAKU)についても少しばかり記させて頂きます。

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黛敏郎と言うと、イメージとしては・・「タカ派」・「日本の楽壇では極めて珍しい右派みたなお方」・「愛国主義者」
みたいなものもあったりしますけど、私的には「題名のない音楽会」の司会者振りがとても印象的でした。
このお方は、右寄りの御方なんですけど、大変柔軟な発想をお持ちで
日本のクラシック音楽作曲界の大変に重鎮でありながら、時に番組内で
例えばバフィーの「アジアの純真」を音楽的に解説したり、バフィーの事を高く評価したりと
決して上から目線とか頭ごなしに否定とかするお方ではなく、
「いいものはいい!!」みたいな発想をするその柔らかさに共感をする事も多々あったものです!

黛敏郎と言うと吹奏楽作品もいくつか残してはいるのですけど、映画音楽もかなり手がけられていました。
例えば、「カルメン、故郷に帰る」とか「裸の大将」とか「東京オリンピック」などその作品数はかなりの数になります。
そうした中、映画音楽と吹奏楽絡みの黛敏郎の作品で一つ大変印象に残っている曲があります。

それが何かと言うと、映画音楽「天地創造」の中から抜粋された、ノアの方舟とメインテーマという部分を後日
ウイットカムが吹奏楽用にアレンジしたものですけど、この曲、私、結構大好きです!!

最近の人達に、黛敏郎の映画音楽「天地創造」と聞いてもあまりピンとこないのかもしれませんよね(汗・・)
映画「天地創造」は文字通り、旧約聖書の物語をダイナミックに描いた大規模な長編作品です。
一度レンタルで見たことがあるけど、あまりにも長すぎてかえって印象がありません。
黛敏郎はこの映画音楽を担当し、アカデミー賞にノミネートもされた事があります。
(残念ながら、受賞ならずという感じでした・・)





ノア



方舟






映画音楽「天地創造」~ノアの方舟・メインテーマですけど
1970年代後半~80年代前半の吹奏楽コンクールでは、結構取り上げるチームもあったと記憶しています。
私自身、中学三年の時に、当時の宮城県大会・高校の部【B部門】で石巻高校がこの曲を自由曲に取り上げ
「なんという広大なスケールのすてきな曲!」と少しうっとりとさせられた記憶があります。
1990年代でも、土気中が、サントリーホールでの「吹楽」と銘打たれた邦人演奏会でこの曲を取り上げていました。
吹奏楽アレンジ版では、ほとんどの場合、ノアの方舟とメインテーマの部分のみ取り上げられています。
吹奏楽コンクールにおいては、1977年に兵庫県の三木中学校が、自由曲として取り上げ
見事に全国大会にて初金賞を受賞しています。
この曲は「ノアの方舟」の出だしのトロンボーンのグリッサンドがかなり難しいと思います。
「ノアの方舟」で展開されるあの印象的な牧歌的なエキゾチックなメロディーは、
三木中の場合、ソプラノサックスで演奏されていますが、
映画を見る限り、この部分はノアがたて笛を吹いて、対の動物たちを集めている部分として描かれています。
「ノアの方舟」はよく聴いてみると随所に不協和音とか複雑な和音が散見されますが、
難しさを全く感じさせずに、かえって「のどかさ」をうまく醸し出している作曲者というかアレンジャーの
手法は素晴らしいと思います。
ホルンののデュエットから始まる「メインテーマ」は一転してスケールの大きな演奏となります。
全体的に、同じメロディーの繰り返しが多いような印象なのですが、使用する楽器の変化・メロディーの変奏をうまく駆使して
飽きがこないような作りになっています。
トランペットのどことなく寂寥感を感じさせる雰囲気のソロもとても印象的です。
(CDで聴く限り、土気中の演奏は、このトランペットソロの部分を思いっきり外しているので
 前半が良かった分興醒めな印象もあったりします・・)

三木中は、1977年以前にも何度か全国に出てはいますが、銀と銅を交互にとっているかのような感じでしたが、
(シンフォニア・ノビリッシマの中間部の熱い表現は天地創造のメインテーマを彷彿とさせるものがあると思います)
1977年は、突然何の前触れもなくとてつもない飛躍を成し遂げ大化けした素晴らしい演奏を聴かせてくれました。
ちなみに当時の三木中の指揮者は、当時では珍しかった女性指揮者です。
この年、今津も歴史的名演として誉れ高い「運命の力」序曲を残していますが、同様に関西代表の三木中も
素晴らしい演奏を残してくれました。
だけど三木中は、この年を最後に全国大会には出場していません・・・
翌年1978年の自由曲は、いきなりグレードを思いっきり下げて
エリクソンの「吹奏楽のためのトッカータ」というまるで田舎の県大会のC編成みたいな曲を自由曲として演奏し、
当時の聴衆からは「え・・? なんで・・?」みたいな雰囲気だったいう話は風の便りで聞いた事はあります・・

ここから先は余談になりますけど、黛敏郎というと私にとって忘れられない曲と言うと「舞楽」(BUGAKU)です!

この曲ですけど、そもそもはニューヨークのバレエ団から委嘱を受けて作曲された作品なのですけど
提示された条件が、
「出来る限りバレエ音楽らしくなく」
「演奏会用みたいな純音楽つもりで書いて欲しい」
「雅楽のようなデリケートな響き・音の絡みを重視して欲しい」
という少し変わったものであり、
その委嘱から生み出されたのがこの「BUGAKU」なのです。
このバレエ音楽は日本の伝統的な楽器は一切使用していません。全て西洋の管弦楽用の楽器を使用しています。
ピアノ・ハーブも普通にも使用されていますし、
使用されている打楽器も、ティンパニ・シロフォン・グロッケン・ドラ・大太鼓・シンバルのみで
「橋鈴」というものだけが唯一日本的なものを感じさせる楽器だと思われます。

このバレエ音楽、使っている楽器は西洋の楽器なのに、響いてくる音楽は「雅楽」そのものなのだと思います!
この感覚、本当に不思議としかいいようがないです・・・
なんで西洋楽器の音だけでこうした「和の響き」を演出できるのか不思議ですし、
雅楽の楽器で西洋音楽を奏でた場合のとてつもない違和感とは全く異なるものがあると思います。
ヘンな例えですけど、金髪の西洋人が日本の能・歌舞伎を演じても違和感があるのに対して、日本人が
シェークスピアの舞台劇を演じてもほとんど違和感を感じないというのと似たような感覚があるようにも感じられます。
ちなみに、この「BUGAKU」は第一部と第二部の二部構成なのですけど、
これは「左方の舞と右方の舞」が一対になって上演される「舞楽」の伝統的な上演スタイルをそのまんま踏襲したものと
思われます。

圧巻は第二部の方ですね!

全般的に打楽器を主体として進行していくという印象があり、
出だしはティンパニと大太鼓の反復から開始され、それに乗っかる形でのオーボエ、そしてピッコロが奏でる
「音のうねり」には大変ぞくぞくとさせられるものがあり、
そして徐々に曲が高潮していき、怒涛のラストのコーダへとなだれ込んでいきます。

この曲は本当にバレエ音楽なの・・?? この曲でどうやってダンサーは踊るのだろう・・・?とか
振付師はこの曲の振り付けを考えるのは至難の業だっただろうな・・とも思ってしまうのですけど
聴いていて大変面白いモノを感じます。
曲自体、特に難解な響きもありませんし、出てくる音は「和の感覚」そのものだと思いますし、
どこかなつかしいみたいな感覚もあったりします。
とにかく西洋楽器のみで「舞楽」みたいな日本の伝統芸を再現出来る事が何よりも驚きですし、
それを実現させてしまった黛敏郎には本当に「驚き」の一言しかないです・・・!!

最後に・・・・

こうした背景から作曲された「BUGAKU」なのですけど、それを更に吹奏楽にアレンジして、
ただでさえ「西洋楽器のみで和の感覚を演奏する」という制約が課されているのに
更にそうした制約の上に弦楽器を使用しないで、管楽器と打楽器のみでこの曲をやってのけたチームが
かつて日本の吹奏楽コンクールで一度だけ登場していました!
そのチームこそが、このブログでも散々登場させて頂いてる秋田県立秋田南高校吹奏楽部なのですっ!!
1992年まで花輪高校に在籍され、1993年以降は秋田南高校に赴任されていた小林久仁郎先生が
1995年の秋田南高校の自由曲として選んだのがこの「BUGAKU」だったのです。
あの演奏、私も1995年に普門館の全国大会で聴かさせて頂きましたが、あの演奏は凄いです・・・!!
前述の通り、あんな制約が課され、指揮者としても奏者としても多分やりにくい曲だったと思うのですけど
前述のそうした「制約のやっかいさ」を感じさせなかったばかりか 、むしろ音楽に「自由さ」が溢れていて
なんか小林先生がいい意味で思いっきり吹っ切れて弾けたような感覚も伝わってきますし、
「管打楽器だけでもこうした曲も自由自在に表現できる・・・
今回はたまたまこうした少し特殊な曲を自由曲に選んだのだけど、
本当に満足いく演奏ができた・・
たまたま使用していた楽器が管楽器と打楽器だけという吹奏楽編成だったに過ぎない・・」みたいな
「心の叫び」(→ドヤ顔みたいな感じ・??)が聞こえてきそうな素晴らしい快演だったと思います!

この「BUGAKU」ですけど、昔はこの曲を収録したレコードやCDが中々見つからなかったのですけど
現在は、湯浅卓雄指揮/ニュージーランド交響楽団の素晴らしい演奏がナクソスよりCD化されていますので
興味がある方は是非是非聴いて頂ければ幸いです!!
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