ジュール・マスネというフランスの作曲家について質問をしてみても、たぶん大多数の人は
「誰、それ・・?」みたいな反応なのかもしれません。
だけどその質問に「タイスの瞑想曲でお馴染みのジュール・マスネ」という文言を加えると
「ああ・・あの甘いせつないヴァイオリンの曲ね・・」と多少はピンとくる方も増えてくるのかもしれません。
参考まで書くと、マスネはクラシック音楽界、特にオペラの世界にあっては大変有名な作曲家であり、
その作品は19世紀末から20世紀初頭にかけて大変人気が高く、楽壇からの評価も高く、
現在においても、「マノン」・「ウェルテル」・「タイス」は頻繁に上演され、
主要なオペラハウスのレパートリー演目となっています。
歌劇「タイス」の間奏曲である「タイスの瞑想曲」は、ヴァイオリン独奏曲としても大変人気が高く、よく演奏会の
アンコールとして演奏される機会も多いと思いますし、この曲を収録した「クラシック音楽名曲集」みたいなCDも
かなり発売されているようです。
そんな訳で、マスネは歌劇の世界で主に活躍をされていた方ですので、管弦楽団の演奏会でマスネの曲が演奏されることは
正直そんなには無いと思います。
なぜかというとマスネが生涯に残した作品の大多数は歌劇のための音楽であり、
管弦楽団が通常演奏する交響曲・協奏曲・交響詩・管弦楽曲のジャンルにマスネが残した曲が極めて少ないからです。
マスネにはバレエ音楽の作品も幾つか残しているのですけど、
吹奏楽に多少造詣が深い方ですと、マスネのバレエ音楽というと「ル・シッド」を思い出される方も多いと思いますし、
吹奏楽コンクールにおいては、1980年に就実高校吹奏楽部が、「ル・シッドのバレエ音楽」という奇跡的な素晴らしい名演を
残してくれています。
(就実のル・シッドの冒頭部分のコールアングレとフルートのソロは、とてもじゃないですけど高校生の演奏とは到底思えない
レヴェルの高さをお披露目してくれています!)
マスネの数少ない管弦楽曲のジャンルの中では、組曲という形式が多いようにも見受けられます。
そしてその組曲のタイトルがなぜかしりませんけどほぼ全て「・・・の風景」という名称で統一されているのも
大変興味深いものがあると思います。
具体的には、
組曲第2番「ハンガリーの風景」
組曲第3番「劇的風景」
組曲第4番「絵のような風景」
組曲第5番「ナポリの風景」
組曲第6番「おとぎ話のような風景」
組曲第7番「アルザスの風景」
となっています。
具体的な地名と絵画的・劇的・おとぎ話的みたいな抽象的で心象的なものの二つの側面から
組曲を作り上げるというのも大変ユニークなものがあるといえるのかもしれないですね。
劇的風景という曲は、マスネにしては珍しく ややグロテスク気味の印象はあります。
シェークスピアの「マクベス」に登場する魔女の描写の部分がそうした印象を与えているのかもしれないですね。
アルザスの風景は、 アルザス地方ののんびりとしたとある村の日曜日の一日の風景を音でスケッチしたような
のどかで平和な曲です。
この組曲は下記の四曲から構成されています。
Ⅰ.日曜日の朝
Ⅱ.酒場にて
Ⅲ.菩提樹の下で
Ⅳ.日曜日の夕べ
の四曲から構成されていますが、あたかもある村の日曜日の朝から夕方をつづったような
音楽です。
Ⅰのクラリネットのソロが印象的な朝の爽やかな感じ
Ⅱの昼間からワインでもたらふく飲んで酔っ払っているような賑やかな音楽
Ⅲのやや瞑想的な音楽
ⅣのA-B-Aの三部構成の形式で、Bのチェロのゆったりとしたソロ
最後のAの、コンサートチャイムが遠くから鳴り響き、トランペットの行軍ファンファーレが
背後から響くような感じは極めて印象的です。
マスネがこの曲を作曲した頃は、時代背景的に普仏戦争の頃と重なっています。
結果的にフランスはこの戦争に敗北し、ドイツにアルザス・ロレーヌ地方を割譲している 訳なのですけど、
この曲は、そうした戦争とは切り離された
あくまで平和でのどかなアルザス地方の村の一日をのどかに奏でています。
さてさて、組曲第4番「絵のような風景」なのですけど、この曲は特に第三曲の「アンジェラスの鐘」が極めて秀逸な
曲だと思いますし、あのまさに「晩秋の鐘」を思わせる音楽のベースにあるのは「絵画的風景」なのだと思います。
今現在はまだまだ夏の暑い盛りの時期ですし、来月になればなったで「残暑が厳しい・・! もー、暑くて敵わん!」という
感じなのかもしれないですけど、季節はいつの間にか秋に向かおうとしています。
そうした秋をイメージさせる雰囲気が「アンジェラスの鐘」の響きには間違いなくあるようにも感じられます。
アンジェラスの鐘は、私の脳内妄想の中では紅葉とか落ち葉みたいな感覚があったりもします。
マスネの組曲第4番「絵のような風景」は下記の四曲から構成をされています。
Ⅰ.行進曲
Ⅱ..バレエの調べ
Ⅲ.アンジェラスの鐘
Ⅳ..ジプシーの祭り
Ⅰの行進曲はとってもチャーミング゛で可愛いというのか愛くるしい曲だと思います。
Ⅱは、なんとなくですけどバレエの間奏曲みたいな雰囲気もあるのかとは思います。
だけどこの組曲の白眉は、Ⅲの「アンジェラスの鐘」に尽きると思います!
この曲は、黙って目を閉じて聴いていると、
遠くで教会の鐘の音を聞きながら、ひらひらと落ちてくる紅葉を楽しみつつ、
街の道とか村の田んぼの畦道に落ちている落ち葉をしゃりしゃりと踏みながらゆっくりと歩いていくというイメージが
湧いてきます。
アンジェラスの鐘は、全体としてホルンが大活躍する曲なのですけど、
ホルンの「ボーン、ボーン」という雄叫びみたいな響きが教会の鐘を模倣していると
思いますが、これが実に教会の鐘の音を巧みに表現していると思います。
後半にかけて、ややテンポを落としたところの弦楽アンサンブルもうっとりするほど美しいですね!
このアンジェラスの鐘の部分だけでもまさに「絵画的風景」に相応しい曲だと思います。
「アンジェラスの鐘」は、美的限界を超えたようにも感じるくらい
秋を感じさせるし、ハッとするほど美しい部分があると思います。
対称的に第四曲の「ジプシーの祭り」は四本のトランペットの華麗なるファンファーレに始まる
躍動的な部分で、Ⅲの美しさがあるから余計にこの第四曲の快活さが浮き立つようにも感じられます。
「ジプシーの祭り」はA-B-Aの三部構成で、Bのアンダンテの部分は、
やはり秋を感じさせるロマンティックな部分です。
そして最後のAで冒頭部分が再現され、華麗に曲は閉じられます。
美しさとダイナミックが見事に同居した素晴らしい組曲だと思います。
この組曲、色々とCDも出ているのに、 私自身は残念ながら管弦楽版の生の演奏を聴いたことは一度もありません。
吹奏楽コンクールの自由曲として、ⅢとⅣの組合せは、結構昔から取り上げられていて、
吹奏楽コンクールの全国大会では既に何チームかがこの組曲を自由曲として演奏しています。
個人的には、1982年の札幌吹奏楽団のアンジェラスの鐘は、本当に美しかったですし、あれはまさに「北海道のおおらかさ」が
素敵に伝わっていたと思いますが、反面、Ⅳのカットがかなり強引過ぎたのが少し勿体ない感じは
あったものでした。
実は、この組曲「絵のような風景」なのですけど、私自身が高校三年の時の最後の定期演奏会の演奏曲目の一つでした!
当時からアンジェラスの鐘は大好きで、
レックス・ミッチェルの「海のうた」同様に吹いているだけで自然と感情がこみあげてくる本当に不思議な曲だったと
思います。
そうですね・・やっぱり美しいメロディというのは聴く時もそうなのですけど、自分自身が奏者として吹いている時も
自然と感情が高ぶってくるものなのですね・・
指揮者に 「後半にかけてもう少しテンポを落として、じっくりとしっくり聴かせて!!」と奏者の立場からリクエストしたものですし、
ジプシーの祭りは、「逆にもう少しテンポを上げて」と注文を出しましたけど、
指揮者からは
「結局お前の解釈・要望は、遅い部分はより遅く、速い部分はより速くという事で
結局はバーンスタインの解釈みたいじゃないか・・・ボツ、却下!!」と ダメだしを食らってしまいましたぁ・・(汗・・)
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