8.基町高校
C/バレエ組曲「シルヴィア」~Ⅰ.前奏曲と狩りの女神(L.ドリーブ)
基町高校は、一部のオールド吹奏楽ファンの間では「基町トーン」という言葉で語られる事もあるのですけど、
柔らかいサウンド・優しい語り口・決して乱暴に鳴らさない・丁寧な音楽作り・温かい雰囲気というのが
その一つの特徴なのかなとも感じるのですが、
そうした「基町トーン」が最高潮に達した演奏が、1981年の序曲ハ調なのではないのかなとも思えます。
翌年の1982年の歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲が、長年に渡ってこの基町高校を指導・指揮されてこられた
増広先生の勇退の年という事になってしまい、全国大会の評価としては銀賞に留まりましたけど、
あのいかにも「おじいちゃんが優しい語り口で孫たちに民話を語っているような」温かい雰囲気が曲の随所から
感じられて、最後の普門館としては大変満足がいかれた演奏になっていたと思います。
あの優しくて温和な手作り雰囲気は、まさに増広先生=基町高校吹奏楽部のコンビによる「基町トーン」の
素晴らしい有終の美に相応しい演奏だったと思います。
そうそう、これは余談ですけど、1982年の増広先生の勇退の年のあのウインザーの陽気な女房たちの
一つ前の演奏が、実は・・そう! 今やすでにある意味「伝説」と化しているあの市立川口の自作自演の
「無言の変革」~そこに人の影はなかったなんですよね!
普通あれだけ普門館の聴衆の度胆を抜きまくりの壮絶極まりないまさに「猛毒」そのものの演奏を自分達の演奏の前に
聴いてしまうと、多分・・ヒビって動揺するのだと思われます。
だけど・・当時の増広先生=基町高校吹奏楽部の奏者の皆様は全く動揺することなく、
「市立川口は市立川口、そして自分たちは自分たちの演奏をするだけ!」みたいな雰囲気が課題曲の冒頭から
感じられて、自分たちの練習の成果を普段通り発揮されていたのはさすがだと思います!
市立川口のあのあまりにも凄まじい「猛毒」をこの基町の温かい音楽で持って完全に普門館の空気を
「中和」していたような感じすらあったと思えます。
ですけど惜しまれつつも増広先生は1982年の普門館を最後に勇退されましたが、
日本のスクールバンドの場合、往々にして長年実績を積み上げてきた優秀な指導者がその学校を離れてしまうと、
後任の先生がご苦労され、なかなかそれまでのような実績が上げにくいとか
中々いい演奏ができないとか、結果的に支部大会とか県大会で散ってしまうとか
後任の先生にとっては色々と悩まれる事も多いものだと思われます。
自分の個性というかカラーは早く出したいけど、なかなか前任の先生のカラーとか伝統みたいなものが立ちはだかってしまい、
自分としてのカラーが出せないまま、いつの間にかコンクールの表舞台から姿を消すという事例は
本当に数多くありましたよね!
だけど基町高校の場合は、その点も大変見事だったと思います。
後を受け継いだ土居先生の演奏スタイルはまさにあれは、「基町トーン」そのものであり、
それが遺憾なく発揮されていた演奏が85年の喜歌劇「こうもり」序曲だったと思います。
とにかくあのワルツは聴いていてとっても楽しかったし心地よかったです!!
土居先生はその後何度か普門館での全国大会でその演奏を聴く事ができましたけど、いつ聴いても
「あい変わらずの基町トーンをキープし続けている! 自分たちのサウンドはこれだっ!というものを持っていて
それが長年ずっとこうやって継承つれ続けているのはすごいものだ・・」と
当時感心していたものです。
普門館みたいなあんな広い会場でも、決して大音量とか過剰な表現はせずに、大変理性的で且つ
温かみが感じられる素敵な音楽を増広先生同様に全国大会でも聴衆に伝え続けていた事は、大変立派な事だと
思いますし、まさに「公立高校の鑑」だと思います。
1983年の演奏も結果的に銅賞という評価ではありましたけど、私個人としては
「え・・・この演奏で銅賞!? 少し厳しすぎるのかも・・」という思いは当時感じていたものでした。
課題曲C/カドリーユみたいな愛くるしい曲は、そうですね・・この課題曲は男子校の私自身もこの曲を吹いていたのですけど、
印象としては男子校みたいな武骨な学校が演奏してもあんまりうまくいかない傾向があります。
(楽譜を見るとよく分かるのですけど、この曲自体大変うすく書かれています)
こういう課題曲は、あまり力まない中庸なサウンドを有するチームの方が得意なのかなと感じるのですけど、
そうした意味では基町にまさにうってつけみたいな曲で、曲全体を温かく包み込んでいたのは大変印象的です。
自由曲は少し地味すぎたのかも・・?
ドリーブの「シルヴィア」は、たまに吹奏楽コンクールでも演奏されるのですけど、大抵の場合、Ⅳのバッカスの行進を
メインにプログラム構成されることがほとんどなのに、正直、あまり盛り上がる箇所も多くなく、どちらかというと
牧歌的でのんびりとした雰囲気のこのⅠを吹奏楽コンクールで演奏する事はかなり勇気がいるとは思うのですけど、
このチームは、そうした曲のほのぼの感とか牧歌的な雰囲気を大変見事に歌い上げていたと思います。
曲が地味な分だけポロが出やすい曲手もありますので、そうした点が銅賞になってしまった理由なのかな・・とも思ったりします。
だけど、こうやって「偉大な前任者」からバトンタッチされても、伝統的な「基町トーン」を崩すことなく
土居先生としての音楽を立派にコンクールで表現されていたと思いますし、私個人としては、もう少し高い評価でも
よかったような気もしますけど、この演奏が銅賞になってしまう事自体、80年代初めの高校の部が
既にハイレヴェルになっていた事を証明しているようにも感じられます。
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