3.嘉穂高校
A/歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲(O.ニコライ)
一言で述べると「音楽が大変温かくて誠実な演奏」だと思います。
今風に表現すると、癒し・やすらぎみたいな音楽なのかなぁ・・とも思ったりもします。
嘉穂高校は、1970年代から既に全国大会でも何度も金賞を受賞している吹奏楽の名門校の一つだったとは
思うのですが、70年代後半は、中村学園・福岡工大付属等の新たな勢力の台頭という事情もあり、中々
全国大会にすら駒を進められなかった時代もあったのですけど、70年代はどちらかというと、吹奏楽オリジナル路線の曲を
結構大胆に表現しているカラーもあったと思われる中、
1978年以降からは火の鳥なと゜のようなクラシックアレンジ路線へと軌道修正を掛けられ、
80年代に入ると親しみやすくて分かりやすいクラシック音楽へのアレンジものへと路線変更をした所、
1981年に「ガイーヌ」で久しぶりの全国大会出場を果たし、86年まではこうしたアクラシック音楽のアレンジものをメインに
自由曲に選曲するようになっていました。
だけど・・・私みたいなオールド吹奏楽ファンですと、嘉穂高校というと1972年のマクベスの「マスク」というイメージが
大変強いですね! 最初にあのマスクを聴いた時は「何と言う大胆で強烈な演奏!、特にダイナミックスレンジの幅の広さは
とてつもないスケールがある!」と驚いたものでした!
翌年の「ディヴァ―ヅェンツ」~Ⅲ・Ⅳも悪くは無い音奏で、やはり静のⅢと動のⅣの対比が鮮やかでしたけど、
印象がマスクに比べると弱いのは、多分ですけど曲としての魅力の違いなのかもしれないです。
嘉穂高校というと「マスク」以外で印象に残る演奏と言うと、やはり1981年の「ガイーヌ」なのかもしれないですね。
あの演奏の特に「レスギンカ舞曲」の小気味よさと木管の優秀さはまさに「職人芸」の域にすら達していると
思います。
82年の「三角帽子」も舞踏音楽としての躍動感は十分に発揮されていたと思いますが、この年は逆に木管セクションの
消化不良が部分的に感じられて、それが音楽的表現力としては十分に金賞レヴェルに達しながらも
銀賞に留まった理由なのかな・・とも思ったりもします。
1986年の「コッペリア」は、まさに「指揮者と奏者が一体となって全員で掴んだ金賞」みたいな雰囲気が漂い、
あの家族的雰囲気の和気あいあいの楽しい雰囲気を普門館の隅々にまで伝えていたと思います。
竹森先生指揮時代の嘉穂高校の最後の普門館は、1995年のローストの交響詩「スパルタカス」でしたけど、
結果的に、初期の頃に吹奏楽オリジナル作品の素晴らしさを伝えられ、途中でアレンジ路線に入り、
やはり最後は・・もしかしたら竹森先生の本分は吹奏楽オリジナル作品にあるのかな・・とも思われる中、
オリジナル作品で締めくくられていたのは、なんか「竹森先生らしいな・・」とも感じたりもします。
そうそう、竹森先生というと特記したい事があったりもします。
吹奏楽コンクールの指揮者の中には、熱血・情熱という先生も数多くいて、中にはとんでもない大振りの先生も
いたりもするのですけど、竹森先生の指揮は、どの演奏の時もそうですけど、
絶対に大振りはしなかったのが極めて印象的です!
見た限りにおいては、振っているのか振っていないのか分からないような大変コンパクトな指揮をされていて、
例えどんなにffの大音量の際とか曲全体がとてつもなく盛り上がる際でも
大振りされることなく、丁寧で必要最低限の指示しか出されない竹森先生のその指揮振りには、
生徒を完全に信頼しきっているみたいな「温かい眼差し」が感じられ、とても印象に残っています。
だって・・・竹森先生は、例えば、1985年の「シンフォニーポエム」のあの炎のような冒頭とか
1990年のスキタイ組曲の野蛮極まりない出だしすらも、決して大振りはされていませんでしたから!
基本的にはゆったりとした2拍子をベースに指揮されているような印象がありました。
竹森先生指揮の嘉穂高校の演奏って、特に親しみやすいクラシック音楽のアレンジものを自由曲にされた場合、
音楽にとてつもない「温かさ」を感じるのですよね!
やはりあれは竹森先生のお人柄なのだと思いますし、
下松高校の中井先生のように公立高校の普通の先生と生徒が一生懸命練習して「手作りの音楽」を
丁寧に仕上げてきました!
みたいな印象を毎年普門館の聴衆に与え続けていたのは素晴らしい事だと思いますし、それは中々出来る事ではないだけに、
すごいな・・と改めて感じてしまいます。
さてさて、1983年の嘉穂高校の演奏なのですけど、
嘉穂高校は基本的には課題曲は「マーチ」を選びます。
だけどこの年は、課題曲にマーチを選ばずAのインヴェンション第一番を選んでいるのですけど、
これは以前も書いたと思うのですけど、この年の課題曲D/キューピットのマーチがあまりにも駄作すぎた・・というのが
理由なのかもしれないですし、毎年マーチを選ぶ竹森先生の感覚としてもあの課題曲は
「ちょっと・・・これはいくらなんでも酷過ぎるのかも・・」という認識だったのかもしれないですね・・・
そのせいか、マーチ以外の課題曲に少し不慣れというせいもあったのかもしれないですけど、
課題曲の演奏は、特に印象に残る点も無く無難に終わってしまった・・みたいな希薄さがあるのは勿体なかったですね・・
自由曲が素晴らしい演奏だっただけに惜しまれます。
自由曲の歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」序曲は、底抜けに楽しくて明るくて軽くてノリがよくて、それでいて品が良い
素晴らしい名曲だと思います。
出だしは、ゆったりと始まるのですが、展開部以降はずっとアレグロで進展し、ラストまでキビキビと曲を進めていきます。
原作はシェークスピアの戯曲なのですけど、一言で言うと、浮気好きのバカ亭主どもを、策略と機智で懲らしめる
奥様方のユーモアを描いた作品なのですが
そうしたウイットが8分足らずの序曲に集約されていると思います。
そうした原曲の楽しさ・域の雰囲気・明るさ・さわやかさを吹奏楽アレンジ版でも
とっても爽やかに楽しくのびのびと演奏していたと思います。
この曲は吹奏楽アレンジ版になると、ヴァイオリンパートを主に担当するクラリネットは曲の最初から最後まで
冒頭以外は全てアレグロ状態の「指が廻りっ放し」のため、大変だったとは思うのですけど、
そうした大変さは微塵も感じさせないで、曲の「楽しい雰囲気」を最後まで崩さずにキープできていた大変素晴らしい
演奏だったと思いますし、結果的に銀賞に留まっていましたけど、
惜しい銀賞の一つだと思います。
そうなんですよね・・・この年は、銀と銅の差は花輪高校以外はかなりはっきりと表れていたと思いますが、
例えば、秋田南・茨城・東海大学第一・愛工大名電・兵庫などの銀賞チームにも素晴らしい名演が多かったような
気もいたします。
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この年の金賞団体と比べると印象が薄い気がします。
演奏順が早かったせいもあるんでしょうか?
この年は中高ともレベルが非常に高い印象がありますね。
中学も城陽のサロメ、市川一のティルとか名演揃いですよね。
僕も嘉穂といえばマスクに尽きますかねぇ。あれ以上のマスクは聴いた
ことありませんし、課題曲のシンフォニックファンファーレも取り寄せて
聴きましたけど、マスクへの前奏曲みたいな感じで、この頃の嘉穂の
サウンドにピッタリでした。
次の年のディヴァージェンツについては同感です。曲の魅力の差が演奏の差
としてそのまま表れてると思います。