ヴィンセント・パーシケッティーは知る人ぞ知るアメリカの作曲家で日本での知名度は限りなく低いといえそうですけど、
私は大好きな作曲家の一人ですし、当ブログにおける「知る人ぞ知る歴史に埋もれた作曲家」シリーズの中では
ウィリアム・ウォルトンやアーノルド、ウィリアム・シューマンなどとあわせて結構頻繁に登場してくる作曲家でもあります。
パーシケッティーが逝去されたのは1987年でしたけど、そのニュースを知ったのは当時秋山紀夫さんの司会でお馴染みの
ラジオ番組の「ブラスの響き」のなかで「追悼・パーシケッティー特集」として取り上げられていた事なのですが、
パーシケッティーの死を知った時は3年後の同じくアメリカの偉大なる作曲家&指揮者のレナード・バーンスタイン以上の
衝撃があったものでした。
同様な事は1990年のコープランドのご逝去と1992年のウィリアム・シューマンの死の時もそうでした。
(不遜な話ですが、パーシケッティーとシューマンの死は自分自身の親の死よりも衝撃度は大きかったです・・)
パーシケッティーという名前を初めて知ったのは、過去記事でも書いた事がありますが、中学最後の吹奏楽コンクールの
県大会の時に自分達の中学の一つ前のチームが自由曲として演奏していたのがパーシケッティーの
「ああ、涼しい谷間」であったのですけど、コンクールの自由曲としてはほとんど盛り上がらず終始ゆったりとした音楽
なのですが、あのなんともいえない独特の洗練された響きと霊感に溢れた静けさに聞き惚れてしまい
思わず「あれれ・・次の出演はうちの学校だったけ・・??」と感じてしまったほどでもありました。
高校に入学して部員の中にマイナー吹奏楽作品にやたらと詳しい部員がいたので、彼に
「パーシケッティーって何者・・?」と質問したら、ハンスバーガー指揮のイーストマンウィンドアンサンブルによる
交響曲第6番・ディヴェルティメント・仮面舞踏会のレコードを貸してくれ、一度聴いてみたら目からウロコ・・という感じで
パーシケッティーの魅力にはまりこんでしまったものでした。
当時はどちらかというと当ブログの吹奏楽カテゴリは何度も取り上げた「吹奏楽のための仮面舞踏会」の難解な変奏曲の
響きに魅力を感じ(1980年の名古屋電気高校による全国大会での名演も素晴らしいものがありました)たものでしたが、
高校一年の時のコンクール自由曲がホルストの吹奏楽のための第一組曲ということで、
実はその時初めて音楽の「構成された形式美」の素晴らしさに気が付き、そうした音楽の構成美に対して更に大きな気づきを
もたらしてくれたのがパーシケッティーの交響曲第6番「吹奏楽のシンフォニー」作品69なのだと思います。
丁度その頃、秋山和慶指揮の東京佼成のレコードでもこのパーシケッティーの交響曲が収録されていて、
ますますこの曲の魅力に取りつかれてしまったという事になるのだと思います。
V.パーシケッティー / 交響曲第6番「吹奏楽のシンフォニー」作品69は一言で述べると短いながらも一つの宇宙が
曲の中に凝縮されていて、大変シンプルでわかりやすい構成をしているのに、曲想はとても斬新で
曲の隅々にまで霊感と才気煥発と創造力に溢れていて、聴く度に毎回毎回新しい発見をしてしまうといった曲と言えそうです。
パーシケッティーがこの交響曲を作曲したのが1960年代ということで、当時の音楽界は既に無調音楽的なわけのわからん
現代音楽に毒されていた時代だったと思いますが、まるで1920~30年代のストラヴィンスキーの新古典主義を
お手本にしたようにすら感じられる古典的形式を構成美を重視しつつも、やはり20世紀の作曲家らしいモダン作風に
打楽器重視のスタンスも感じられ、第一楽章の冒頭を三人の打楽器奏者によるドラムスの重なりに他の管楽器が
誘導されていくスタイルからもそうした形式美とモダンさの融合が感じられそうです。
吹奏楽のためのオリジナル作品としての「交響曲」というジャンルは最近では全然珍しくなく、
色々な作曲家もこのジャンルに手を付けているのは素晴らしい事だと思います。
別に管弦楽団だけが交響曲を奏でる資格を有している訳ではないと思います。
要は、管弦楽団でも吹奏楽団でも、その表現方法とそれを表現する楽器の種別の違いの問題であって、
表現する方法がたまたま管楽器+打楽器の吹奏楽であったという事で全然問題ないと思います。
管弦楽曲を吹奏楽にアレンジして別の表現方法を楽しむという事の是非とは次元が異なるのかなとも思います。
(さすがにディティユーの交響曲やシベリウスの交響曲などを吹奏楽にアレンジして演奏するのは無理がありそうです・・)
吹奏楽の交響曲の例として・・・
〇ジェイガー/吹奏楽のための交響曲第1番
〇バーンズ/交響曲第2番 同/第3番
〇フォーシェ/交響曲変ロ短調
〇オーエン=リード/交響曲「メキシコの祭り」
〇伊藤康英/交響曲
⇒確か二楽章構成だったと思います。異常に長いドラマチックな第一楽章と短めのアレグロの
第二楽章で構成されています。東京佼成の東京文化会館での定期で初めて聴いて
結構印象に残っています。
〇チャンス/管楽器と打楽器のための交響曲第2番
〇ギリングハム/管楽器と打楽器のための交響曲
〇メイ/交響曲第1番「指輪物語」 同/交響曲第2番「ビッグアップル」
〇ホエアー/ ストーンヘンジ交響曲
〇P.ヒンデミット/ コンサートバンドのための交響曲
などなど色々ありますし、すっかりコンサートやコンクールのレパートリーとして定着したものもあるとは思います。
個人的に一番大好きな吹奏楽の交響曲は、誰が何と言っても
パーシケッティーの交響曲第6番「吹奏楽のシンフォニー」に尽きると思います。
作曲は1956年ですけど、当時の吹奏楽はまだどちらかというとスーザでお馴染みのマーチとか
大学のフットボール等の応援等どちらかというと娯楽的作品が多かったようにも思えますが、ウインドアンサンブルの形式で
描かれた純粋に管楽器と打楽器のみの表現形態でも管弦楽の形式による一般的な交響曲に遜色ないばかりか
大変芸術性が高く管弦楽作品と比べても全く遜色のない完成度の高さの吹奏楽作品の交響曲と言う観点では
先駆的作品の一つとも言えそうです。
パーシケッティーは、管弦楽のための交響曲も色々と作曲していますし、
(交響曲第5番は、弦楽のためのシンフォニーというタイトルですけど、デュトワの指揮でCD化されていたと思います)
吹奏楽の分野でも「仮面舞踏会」・「ディヴェルティメント」・「ああ、涼しい谷間・「ページェント」・「パラブル」」など魅力的な作品を
残しています。
交響曲第6番は、前述の通り音楽解説書風に書くと「新古典主義」的な作風です。
4楽章構成で、演奏時間は約16分で各楽章が短めながらも、全て引き締まって書かれていて、音楽に全く無駄がないと
感じる作品でもあります。
曲自体、全ての楽章に何か「霊感的なもの」・「インスピレーション」を感じるほど
独創的なアィディアが詰まっていて、音楽のおもちゃ箱、宝石箱みたいな楽しさもそこにはあると思います。
全体を通して打楽器に動機の提示や展開を含む重要な役割が与えられているのが大きな特徴だと思います。
それを第一楽章の冒頭から三人の打楽器奏者による小太鼓・トムトムによって動機が提示され、それがホルンに
受け継がれていく当たりの手法は名人芸的なものすら感じてしまいます。
第一楽章の小太鼓・トムトムで表現される何かせわしい感じの一方で大らかな空気も感じ、
第二楽章の一転してゆったりとした祈りのような歌の世界にはこの世のものではない雰囲気感じますし、
中間部のユーフォニアムによる朗々としたたっぷりと歌い込んだソロはユーフォ奏者の腕の見せ所といえそうです。
第二楽章のあの朗々とした歌はパーシケッティ自身が作曲した聖歌・Round Me Falls the Night に基づいているそうです。
第三楽章の民謡を思い出させるようなしみじみとした歌とどこか懐かしい感じもします・・
第四楽章のメカニック的なアレグロなのですけど、突進する中にもスピード感や清涼感も感じ取ることが出来、
一気にクライマックスまで駆け上がります。
作風としては、確かに新古典主義時代のストラヴィンスキーにも何となく近いような印象もあるのですが、
やはり全編を通じてのあの「霊感」はさすがとしか言いようがないです。
打楽器も、目立ってはいるのですが決して派手と言う訳でもなく、
ティンパニ・大太鼓・小太鼓・シンバル・タンバリン・シロフォーン・トムトム程度しか使用していないのに
管楽器を引き立たせる香辛料としての役割もさりげなく果たしている所が心憎いです。
演奏は、断然何と言ってもハンスバーガー指揮/イーストマンが圧倒的お勧めです。
ライヴ録音とは思えない精密な作りに加えて、ライブ独特の高揚感も出ています。
他には、フェネルの東京佼成も素晴らしいし、秋山和慶さんの東京佼成の知的な響きも申し分ないです。
この曲、残念ながらコンクールではほとんどお目にかかりません・・・
強いて言うと、81年の関東大会銅賞の都留文科大学と82年の東京都大会銅賞の創価大学くらいかな・・
(都留文科の課題曲のイリュージョンの冒頭の外し具合は壮絶です・・ちなみにこのチームのパーシケッティーは
第三・第四楽章を演奏していました)

最後に・・
この曲の打楽器奏者は作曲者の指定では3人となっていて、ティンパニ奏者も部分的にトムトムなど他の打楽器を
掛け持ちして演奏するという少し珍しい点もあったりもします。
ティンパニ奏者は管弦楽も吹奏楽も一般的にはティンパニのみを担当する事がほとんどなのでこうした掛け持ちし指定は
どちらかというと珍しいと言えそうです。
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