11.弘前南高校
B/組曲「ドリー」より(フォーレ)
この学校は以前も何度か書いた事があるのですけど、一つ特筆すべきことは何かと言うと
全部門を通して全国大会に5回以上出場した数多くのチームの中では、おそらくは・・・唯一・・・
出場した全ての評価が「金賞」で、それ以外の評価は一切無しという
ある意味偉業を成し遂げたチームだと思います。
私が現役奏者の頃は、そういう「全国大会オール金賞」というと、ブリジストン久留米とかヤマハ浜松という
チームが思いついたものですけど
ま・・・ヤマハ浜松みたいな半分プロの吹奏楽団みたいなチームですら、たまーーには銀賞を
受賞する事もある時代に既に入っていますからね・・・
それと・・・・
弘前南で「すごいな、この学校・・・」と思わず感じてしまう点は、
1977年~81年の「5年連続金賞」を成し遂げている期間中、なんと・・・指揮者が異動のせいかよく分かりませんけど
交代されています。
一般的にこうしたスクールバンドの場合、実績ある前任者が別の学校に異動をしてしまうと、
コンクール等であまり良い演奏&評価がされない傾向が大変強いのですけど
(今年・・・2015年だって・・・あの精華女子高校ですら、偉大なる前任者の藤重先生が別の学校に移って
他の方が指揮をされていたようですけど、
結果は・・・・九州大会ダメ金ですから・・・
本当に難しいものですよね・・・)
弘前南は、1977年~79年で指揮されていた斉藤久子先生から斉藤聖一先生に指揮者が交代されても
ずーーっとあの素晴らしい音楽をキープし続け
結果的に5年連続金賞を達成してしまいましたから、
とにかく・・・これは・・・「お見事!!」以外の言葉しか出てきません!!
斉藤久子先生のどちらかというと・・・「溌剌さ」が全面に出ていた演奏に対して
斉藤聖一先生の「しっとりとした内省的で抒情的で瑞々しい演奏」という印象が自分の中ではあったりするのですけど、
5年間の中で違った指揮者による違った個性をそれぞれ見事に表現していた5年間だったと思いますし、
とにかく・・・
今現在の視点でも賞賛に値する素晴らしい5年間の演奏だったと思います。
この年、1980年の弘前南の演奏ですけど、当時「BP」(バンドピープル)の高校の部の評を担当されていた
指揮者の汐澤安彦氏のコメントが「まさにその通り!!」という感じだと思います。
要は・・・・
課題曲B/南の島からにおいては、序盤から中間部のゆったりとした部分は・・・なんか音楽がたるみがちで
やや淡々と無表情に進行している傾向があるのですけど
例の後半の「はあ~! ヤッ!!」という掛け声が全てを一新させてしまった様な印象があり、この掛け声以降は
大変生き生きとしたまさしく「目が覚めるような」躍動感溢れる演奏をしてくれていたと思います。
というか・・
もしかして・・・これは斉藤聖一先生の「意図的な演出」なのかも・・・という感じすらあると思います。
自由曲の「ドリー」は、原曲の繊細で粋なピアノ曲をここまで吹奏楽という「管楽器」で表現できる事に
驚きを感じてしまいます。
全体的に金管を抑制し、木管を主体に曲を展開していましたけど、それは大正解だったと思えます。
とにかく・・・大変バランスがよくて木管が丁寧で上品で、特に・・・素晴らしい「音の気品」が
あったと思います。
少し欠点を言うと、課題曲の掛け声ですれど、何となく・・一部の男性の声が「奇声」のように聴こえた事と
自由曲のタンバリン等の小物打楽器が少しだけしゃしゃり出過ぎている・・・
そんな感じもあったと思いますけど
あの木管の「しなやかさ・上品さ」の前では、そんなつまらん事はどうでもよくなってしまいそうです。
余談ですけど、
弘前南は1982年に「5年連続全国大会金賞」として栄誉ある「招待演奏(特別演奏)」を東北大会と全国大会で
お披露目してくれるのですけど
その時のフォーレの組曲「ぺリアスとメリザント」とR.コルサコフの「熊蜂の飛行」は
まさに・・・歴史的名演だと思います。
東北大会においては・・・
プログラムの表記がなぜか「テレアスとメリザント」という誤表記になっていたのは
ま、ご愛嬌ですね・・・(笑)
だけど、こんな静かで穏やかで抒情性に溢れ、内面性が強く、そして激しく盛り上がる部分がほぼ皆無の
このフォーレの曲を
「招待演奏」に持ってきた弘前南の「心意気」は高く評価したいですね。
演奏は終始穏やかに展開され、
打楽器・金管セクションは終始暇そうな感じでしたね・・・
だけど木管セクションの細かい音色にまで神経を行き届かせたその「繊細さ」は
高く評価されるべきだと思います。
あまりにも美しくはかなく、もろそうな音楽が15分近く延々と続き、
そのあまりの「繊細さ」に
何か心を揺り動かされたものです。
あの演奏・・私は東北大会で聴いていましたけど、とにかく「はかなく美しい・・・」という言葉しかなかったです!!
この組曲で唯一盛り上がるⅣ.メリザントの死の「弔い」を示唆する金管の高まりですら
かなり抑制されていて、
終始緊張感と繊細なサウンドに魅了された瞬間でもありました。
圧巻は「熊蜂の飛行」かな・・・
あのクラリネットの指回しは、最早曲芸の領域でしたね・・・
招待演奏が終了すると、会場からはまさかの「アンコール」を求める拍手が鳴り響き
指揮者の斉藤先生もアンコールは想定外だったのでしょう・・・
指揮台から困ったような表情を浮かべていましたが、
再度この「熊蜂の飛行」をお披露目し
無事に招待演奏を終了させていました。
全国大会の方の特別演奏では、アンコールが掛ったかどうかは・・・聴いていないので分からないです・・・
最後に・・・またまた余談ですけど、
この年ではなくて前年の1979年のドビュッシーの「小組曲」についてですけど、
BJ(バンドジャーナル)を読む限りでは、いわゆる音楽評論家と呼ばれる方でも
評価は真っ二つに分かれていて
やっぱり・・・音楽の専門家であっても「感じ方」は千差万別なんだし
コンクールでの「評価」というものは必ずしも絶対的なものではないんだな・・いう事を改めて感じたものです。
例
吉田友紀氏
「聴いた感じでは、アンセルメ指揮の演奏に近い線を出している。
ドビュッシーの音楽らしい雰囲気を再現していて、編曲・演奏共に立派である」
上野晃氏
「感覚のデリカシーはいずこへ、とても音色のディストリビューションまで手が回らずバランスを
失ってしまった・・・
分相応な指揮者の高望みから起きた破綻である」
そうですね・・・私の感想としては吉田氏の方が全然的を得ていると思います。
ま・・・その辺りは「各個人の感じ方の差」なのでしょうね・・
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