ハワード=ハンソンという作曲家は・・・・正直・・・そのお名前も作品も日本ではほとんど知られていないですよね。
このアメリカの作曲家は、
バーバーと並んでアメリカ保守系クラシック音楽作曲家の大御所の一人で
「イーストマン音楽学校」の校長を長い間勤めていた事でも知られています。
私のように1970年代~80年代にかけて吹奏楽に関わりがあった人間の中には、ハンソンと言うと
吹奏楽オリジナル曲の、「コラールとアレルヤ」とか「ディエス・ナタリス」という作品を思い出して頂けける人が
いるのかもしれません・・・
(いたらとっても嬉しいけど・・・、私、1979年に高岡商業が全国大会で演奏した「コラールとアレルヤ」本当に
大好きなんですよね・・・)
ハンソンは元々がスウェーデン系移民の子孫で、そのせいか
交響曲第1番には「北欧風」のタイトルが付けられています。
だけどハンソンと言えば、交響曲第2番「ロマンティック」が断然いいと思います。
この交響曲第2番は、実は・・・・私なんかは、20世紀の「影の隠れた名曲」とか「埋もれた名曲」だと
思っています。
本当にこんなに抒情的で美しく、同時に「希望」にも溢れ、優しくせつなくて
聴いているだけでなんか・・・「自分も頑張ってみよう・・・!!」と思わせる曲は・・・・正直・・20世紀の交響曲の中では
結構珍しいものがあるような気さえします。
極論ですけど、このハンソンの交響曲第2番「ロマンティック」を一度も聴かないで、その生涯を閉じられるのは
なんだか・・・とっても勿体無いような気さえします・・・
(あれれ・・・最近、アーノルドの交響曲第2番とかウィリアム=シューマンのヴァイオリン協奏曲とか
ハチャトゥーリアンの交響曲第3番「シンフォニーポエム」でも同じ事を言っていましたよね・・・苦笑・・・)
この曲は、交響曲第1番「北欧風」に興味と可能性を感じた
当時の大指揮者クーセヴィッキーから
ボストン交響楽団創立50周年記念作品の委嘱を受けて作曲されたものです。
この時、他に委嘱を受けた作曲家は、ストラヴィンスキーやルーセルなど当時の大御所達なのですけど、
当時は特に実績もない新人作曲家にこうした委嘱する方も勇気が必要だったと
思われますが、
ハンソンは、その期待に応えて素晴らしい曲を後世に残すことになります。
この交響曲が作曲された当時は、ストラヴィンスキーの原始主義と新古典主義とか
ドビュッシーやラヴェルの印象派的音楽とか
シェーンベルクの無調音楽が闊歩する時代でしたけど、
そんな当時最先端の音楽に全く影響を受けずに
「分かり易くて美しくて抒情的な」音楽を残したハンセンは素晴らしいと思いますし、
ほぼ同時代を生き、時代に流されずにロシアの香りが漂うセンチメンタルな音楽を作り続けた
ラフマニノフにもなんか重なるものは相当あるようにも
思えます。
交響曲第2番「ロマンティック」は、三楽章構成で演奏時間も25分程度で
非常に分かり易い音楽です。
第一楽章は静かに開始されますが、
すぐに快活なメロディーが展開されていきます。
この第一楽章のメロディーが第三楽章でも再現される事となります。
第二楽章は、「美しい!」としか言いようがない甘い旋律が続きます。冒頭のフルートが実にいいですね・・・
第二楽章中間部の木管楽器の使い方が実に巧みだと思いますし、抒情的に流れていた音楽に
瞬間的な緊張感をもたらす効果もあると思います。
抒情的というよりは、
「昔の出来事を静かに振り返りながら余韻を楽しむ」みたいな感覚の音楽です。
第三楽章は、上記の要素に加えて
「未来への楽観的希望」みたいに明るい要素が加わっていきます。
冒頭のあのメロディーは・・・・ハンソン自身がこの曲を「精神においては若い」と評していましたけど
その「若さ」が見事に溌剌とした曲想として表れていると思います。
第三楽章のラスト前で一旦静かになる部分があるのですが、
これがまた「昔をしみじみと懐かしむ感じ」が漂いうっとりさせられ、
最後は肯定的希望を持って明るく閉じられる感じです。
2013年9月に逝去された作曲家&音楽評論家の諸井誠氏の著書に
「現代音楽は怖くない」というものがあり、この著作の中で
この中で諸井氏はハンソンの交響曲第2番にも触れていますが、
「クーセヴィッキーが委嘱した数々の作品の中で、一番新鮮味が無く最も後ろ向きな作品」と
かなり酷評しています。
だけど・・・・
私はそれは全然違うと思っています。
第一に・・・・この音楽は全く後ろ向きではない!! 一体この音楽をどうひねくれて聴けば「後ろ向き」に聴こえてしまうのか
逆に教えて頂きたいほどです・・・・
特に第三楽章の冒頭の第一楽章再現の部分とか第三楽章のホルンの展開部とか
ラスト近くの高揚感なんかは・・・・
とにかく「ひたすらに前向きに一生懸命生きていれば・・・そのうち・・きっと何かいい事が待っているはず!!」みたいな
「希望のメッセージ」を私はこの曲から感じてしまいます。
間違ってもこの曲は「後ろ向き」というものではない!!
ま・・・・100歩譲って、仮に諸井氏が言うとおり「後ろ向き」であったとしても、
私の考えとしては・・・
「別に全ての音楽が前向きでないといけないとか何かメッセージ性とか革新性を有しなくても
いいじゃん・・・」という事なのです。
要は、音楽とは常に前向きでないといけないとか、高尚な内容のものでないといけないとか、
常に新しい感覚を持ち、新しい技術と表現力を提示しないといけないというのではないと
思います。
別に後ろ向きだっていいと思います。
作風が「懐古的」だったり「新鮮味に欠けていても」いいじゃないかと思います。
その音楽によって、聴く人の心に「何か」を伝えることが出来れば
それでいいと私なんかは思っています。
音楽全ての作品が進歩的なものを目指す必要性なんか全然ないと思いますし、
音楽の中には、後世とか自分の過去を見つめ直したり、
「美しいもの」を自分なりに求めたり
そうした方向性の音楽が現代にもあって然るべきものだと思います。
第一・・・・前述のボストン交響楽団創立50周年記念の委嘱作品ですけど、このハンソンの交響曲第2番以外には、
例えば・・・・プロコフィエフの交響曲第4番とかルーセルの交響曲第3番などがありましたけど、
そうした曲と同系列でこの曲論じる事自体がナンセンス・・・
だって・・・そもそも目指している方向性が全く違っていますし、
別に・・・ハンソン自身は、そんな音楽に「革新性」を求めるタイプではありませんから・・・
それに何よりも・・・
私自身は・・・この曲から「生きる希望」を感じ取っています!!
ハンソンの交響曲第2番「ロマンティック」って、
甘くせつないし、あまりに美しすぎるのだけど、何か妙に「芯」がガッチリとある作品
なのですよね。
だけど・・・・この曲の生演奏は一度も聴いたことがないですね・・・
ま、一度だけ吹奏楽アレンジ版としい聴いたことがありますし、それも悪くは無いのですけど、
出来るならば・・・
この交響曲を、管弦楽版として是個是非一度生演奏で聴いてみたいのですよね・・・
ちなみにこの曲、アメリカ映画「エイリアン」のラストシーンで使用されています。
この曲をCDで聴く場合、
スラットキン指揮/セントルイス交響楽団が素晴らしい演奏を残しています。
カップリングは、バーバーのヴァイオリン協奏曲ですから
アメリカの音楽を聴くには、まさしくうってつけの一枚だと思います。
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交響曲第2番「ロマンティック」は90年代初期にちょっとしたブームで、スラットキンももちろんいいですし、シュワルツ指揮シアトル交響楽団もとてもいい演奏してます。
前にも言ったかもしれないですが、かつては九州女子高校(現・福岡大学附属若葉高校)が福岡県大会でトップで代表に選ばれたにも関わらず、九州大会への参加を何故か棄権。知る人ぞ知る、幻の名演と呼ばれてました(笑)現地で聴いた人は「九州女子、全国行けるんじゃない?!」って言ってましたが。
同年(92年)佐賀市民吹奏楽団も全国大会で演奏してますね。
仙台サンパレスの全く響かないホールでの演奏、ちょっと残念な出来でしたけど。