A.リードの吹奏楽のための組曲「ハムレットへの音楽」は、リードの曲の中でも、
アルメニアンダンス・オセロ・エルサレム讃歌・第二組曲などと共に
決して忘れてはいけない永久に後世に受け継いでいきたい素晴らしい吹奏楽オリジナル名曲の一つだと思います。
実際はこんな素晴らしいオリジナル名曲が吹奏楽コンクール・全国大会では1993年以降一度も
演奏されていない事は少し寂しいものもあったりしますね。
A.リードの組曲「ハムレットへの音楽」は、言うまでもなく
シェークスピアの戯曲にインスピレーションを受けたリードが、特に印象的な四つの場面を
四楽章形式の組曲としてまとめ、1970年代前半に発表しています。
私の記憶では、この曲の吹奏楽コンクールの全国大会初演は、谷口先生時代の天理高校によってなされていて
演奏会での全曲初演は阪急百貨店だったと思います。
この吹奏楽のための組曲「ハムレットへの音楽」は下記の四つの楽章から構成されています。
Ⅰ..プロローグ:エルシノア城とクローディアス王の宮中
Ⅱ.ハムレットとオフィーリア
Ⅲ.役者たちの入場
Ⅳ.エピローグ.:ハムレットの死
全体的にはⅠの完成度が非常に高く、劇的要素が一番感じられます。
そのせいか、コンクールでこの組曲が自由曲として演奏される場合は、このⅠの部分をメインに
構成されることが大変多いです。
出だしのズドドォォォ――――ン!!とまるで雷が落ちたみたいの雰囲気が素晴らしいですよね!
なんかいかにも「これから悲劇が起きるぞ・・」みたいなオーラに溢れていると思います。
前半のおどろおどろしい部分と後半の戴冠式をイメージさせる華やかな雰囲気の対比が実に素晴らしいと
思います。
またこのⅠの前半部分では、ヴィウラフォーンがかなり効果的に使用されていて、あの残響音は
耳に焼き付いてしまいそうですね。
Ⅱは非常に美しい音楽で全体的に「優しく美しく・・」みたいな雰囲気なのですけど、やはり「悲劇性」は早くも
感じさせます。
また、Ⅱは、作曲当時では大変珍しかった「ハープ」が効果的に使用され、全体に色彩感をもたらしてくれています。
Ⅲは短いけど大変躍動的な音楽です。
もしかして・・この組曲でアレグロ的な展開を聴かせてくれるのはこのⅢの部分だけなのかな・・?
ⅠとⅡとⅣは、ほぼアダージョみたいな感じですからね・・・
Ⅰの後半は・・確かにアレグロっぽいけど決して「快速」という感じではありませんからね・・
Ⅳは内面的な音楽という感じです。
そして、Ⅰの前半のメロディが次々と奏され「死」を印象づけ、バスドラムもⅠ同様にロールされていくのですけど、
やがてこのロールも止まってしまいます・・
最後には皆が倒れ全てが時を止めたような空気で終わります。
Ⅳに関しては「陰鬱」という雰囲気で満ち溢れているように聴こえます。
意外な感じもしますけど、この組曲に関しては、いまだに全曲盤に「これが名演!」という決定的名盤が
出現していないような気もします。
リードの自作自演の東京佼成のCDもありますけど、私的にはそれほどいい演奏とは感じられません。
音楽が非常に間延びし、緊張感に欠ける感じがします。
録音も当時は既にデシタル録音の時代に入っていたのですけど意外とよくないし、残響効果が弱いのが残念です。
一方、カット版という形になるのですけど、「吹奏楽コンクール」においては、この曲の名演は
色々ありますね!
この組曲は、天理高校が1974年と79年に全国大会で初演と再演した際のカットヴァージョンが
圧倒的に有名です。
Ⅰのゆったりとした前半から開始し、Ⅲを間にはさみ、
再度Ⅰの後半部分を組み合わせるという結構強引なカットなのですけど、 これが実に的を得たカットというか、
音楽的緊張感を巧みに維持した構成となっています。
全曲版は、下手な演奏チームがやってしまうと、ⅡとⅣがだれてしまう傾向にあるのですけど、
このコンクールカット版は、7分程度という適度な短さのためか、
大変な「劇的要素」に満ち溢れていて、私自身は、どちらかというと、このコンクール用カットヴァージョンの方が好きです!
勿論、カットといういかにも日本のコンクール方式に対しては当然賛否両論あるのはわかっていますけど、
カット版の音楽的凝縮性を考えると、オセロは出来れば全曲演奏して欲しいけど、ハムレットはコンクールカット版の方が
いいのかな・・?とすら感じる事もあります。
この曲は、全国大会において素晴らしい名演が色々と生まれています。
私的には以下の5チームが印象に残っています。
〇1979年/天理高校
正統派の素晴らしい演奏
金管楽器の引き締まった音はまさに絶品
特にⅢのトランペットのファンファーレとⅣの後半の迫力は素晴らしいですね!
〇1984年/野庭高校
音楽的感動の高い演奏
実にスケールが大きく、ロマンチックで奏者の自発性がうまく出ている感じ
多分ですけど、野庭のこの演奏の「表現力」を超えるチームは出てこないと思います!
確かに一部やり過ぎで演出過剰なのですけど、それが嫌らしく作為的に感じさせない所は素晴らしいです。
音楽の流れが実に自然で、一つ一つの表現が
「なぜこの箇所で私達はこのように演奏をするのか」という事を音楽を通して伝わってくるのが
生演奏で聴いてもビシビシと伝わってきていて、
まるで何かの「電撃」を食らったかのように全身からビリビリと音楽的緊張感とか感情の流れが
普門館の客席にいた私にも十分伝わっていたと思います。
プロローグの息の長いメロディーラインをあんなに緊張感を終始保ち続け、
奏者と指揮者がほぼ舞台上で完全燃焼し尽くした充実感さえ感じたほどです。
Ⅲの役者たちの入場も「鮮やか」という言葉しか出てこないです。
ラストの、クローディアス王の宮中も、チューバをバリバリと鳴らし、低音セクションを「これでもか!!」というぐらい煽り立て
トムトムとスネアドラムによる連打も加わり、
すさまじい大音量なのですけど、それが全然「うるさい」と感じさない表現力の幅の広さが
とにかく素晴らしかったです。
〇1982年/乗泉寺吹奏楽団
時任氏ではなくて円田氏の時代の演奏
演奏時代は可もなく不可もない凡演に近いのですけど、
Ⅱを最初に始め、ⅢをはさまないでⅠをノーカットで演奏
「タイムオーバー」が心配されたけど、ギリギリセーフ
カットが珍しい構成なので妙に印象的です。
〇1988年/市立川口
導入部のトランペットのミスが痛すぎる演奏です。
Ⅰの前半もゆったりとたっぷりと抒情的に歌い上げ、アルトサックスの歌いまわしも絶品
ラストもコンサートチャイムではなくて、「無言の変革」で使用した鐘を二台も駆使し
派手にカンコーン鳴らしていたのが印象的です。
〇1993年/大曲吹奏楽団
異常にテンポが遅い演奏・・・
音楽が部分的に間延びしていますけど音楽的緊張感は維持し、
緊張とゆるみがミックスしたユニークな演奏でもあると思いますし、指揮者の小塚先生の個性が
既にこの時代から炸裂していると思います。
他には支部大会でダメ金のため全国大会には進めなかったのですけど、1988年の信国先生が
指揮された1992年の関東大会での川口ブラスサソイェティーも大変素晴らしい演奏だと思います。
88年の市立川口はトランペットのミスがかなり印象を悪くしたのですけど、そのリベンジと言うせいもあったのか、
トランペットをはじめ、ほぼノーミスで乗り切る事が出来ていて、
全体の劇的雰囲気も申し分なかったですし、全体的には「正攻法」のハムレットでした!
市立川口みたいな鐘(カリヨン)は使用しなかったものの、とてつもなくバカでかい巨大コンサートチャイムを
使用していて、確かこのチャイム奏者は、二段の台の上に乗っかってこの楽器を鳴らしていたような
記憶があります。
市立川口ほどⅠの前半は執拗に歌い込んでいなかったのは少し意外でした。
こうした素晴らしい名曲ですので、「温故知新」じゃないけど、たまには昔のオリジナル曲を演奏されて、
今現在のオリジナル曲との違いを考察されてみるのも悪くは無いのかも・・?
出来ればこの曲の更なる「名演」も聴いてみたいものですね!
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今から20年くらい前の市民バンド時代のこと。
コンクール直前の総決起集会(?)と言うことで、飲み会が開催されました。
その飲み会に何故か見知らぬ人が合流、
一緒に焼肉を食べたことがありました。
当時は「誰この人?」でしたが、
それがまさかの時任さん。
どうやら指揮者の知り合いだったらしく、
しかも県大会の審査員で来県していたそうです。
(指揮者それを知っててわざわざ呼び出したようです)
もちろん、コンクールの審査には何の影響もなかったですけどね(当然)
余談①
昨日、市内の市民楽団の定期演奏会がありました。
どうしても聴きに行くことが出来ませんでしたが、
HPを見る限り、アルメニアンパート1を演奏したご様子です。
最近、コンクールや演奏会でもなかなか聴く機会がなかったので、非常に残念でした。
余談②
昨日の定期演奏会を行った市民楽団の団長が、自分の10学年上大先輩で、
大学創設以来初めて全国大会に出たメンバーの一人です。
先日その先輩から大学祭で現役とOBの合同バンドで演奏するからと、
一方的に楽譜が送りつけられました。
楽譜が届いたのが先週の土曜日で、本番は今度の土曜日なのですが大丈夫でしょうか?(笑)