スペインの大作曲家の作品というとアルベニスのスペイン組曲とかトゥリーナの幻想舞曲集などいろいろありますけど、
やはり最も有名で演奏頻度やCDの録音機会が多いというとファリアのバレエ音楽「三角帽子」なのかもしれないです。
そしてファリアというと忘れていけないのがバレエ音楽「恋は魔術師」ともいえそうです。
過去においてファリアの「三角帽子」はこれまで何度も生の演奏会で聴いた事があったのですが、「恋は魔術師」は
意外にもこれまでわずか一回しか実演で聴いたことはないです。
確か2003年頃だったと思いますけど、東京交響楽団の東京芸術劇場シリーズの定期演奏会で
「恋は魔術師」とかヒナステラのバレエ組曲「エスタンシア」などという比較的珍しい曲を聴くことが出来のはとてもありがたい事
でもありました。
それにしてもエスタンシアの終曲の踊りは、豪快な音楽でとても聴いていてゾクゾクしたものですし、アンコールでも
終曲の踊りだけを演奏し一回の演奏会で同じ曲を二度楽しめるという珍しい経験もさせてもらいました。
(エスタンシアの終曲の踊りやハチャトゥーリアンのバレエ音楽「ガイーヌ」~レスギンカ舞曲や
伊福部昭の「日本狂詩曲」~Ⅱ.祭りはいつ聴いても何度聴いてもあれは集団発狂のエキサイトなダンスですよね~♪)
ファリアのバレエ音楽「恋は魔術師」は同じ作曲家のバレエ音楽「三角帽子」とはかなり異なっていて、三角帽子は
とにかく明るく健康的で勧善懲悪的なストーリーもとてもスカッとさせられるものがあるのですけど、
恋は魔術師はどちらかというと男女の恋の情念というのか全体的にはどす黒いとまではいいませんけどかなり情念的で
ドロドロとしたほの暗い男女の情念が感じられて、同じバレエ音楽でもかなり対照的というのか明暗の違いはかなり
はっきりと伝わってきていると思います。
恋は魔術師は当初は編成もタイトルも実は別のものでした。
当初は歌入りの音楽劇(ないしはフラメンコ)「ヒタネリア」として1914年から1915年にかけて室内オーケストラ(8重奏)のために
作曲されましたけど、その初演時の評判としてはぱっとせずあまり芳しくない評価に終わっています。
そのためファリアはその後すぐに改訂を行い、演奏会用の組曲「恋は魔術師」とタイトルも変更し、
編成も室内オーケストラから独唱とピアノを含む2管編成オーケストラに改めらられ、その初演の成功に気をよくしたファリアは
「恋は魔術師」のバレエ化の制作を開始し、それが現在の「恋は魔術師」のスタイルになっています。
バレエ音楽「恋は魔術師」は下記から構成されています。
1.序奏と情景
2.洞窟の中で(夜)
3.悩ましい愛の歌
4.亡霊
5.恐怖の踊り
6.魔法の輪(漁夫の物語)
7.真夜中(魔法)
8.火祭りの踊り
9.情景
10.きつね火の歌
11.パントマイム
12.愛の戯れの踊り
13.終曲〜暁の鐘
三角帽子はかなり多彩な打楽器を用いていましたけど、恋は魔術の打楽器はティンパニとチャイムのみです。
そして3・10・12・13にメゾソプラノの独唱が加わります。
バレエの上演時間も25分程度で長すぎないのも魅力ですし、25分の中に凝縮された素晴らしい音楽が詰まっていると
いえそうです。
全体的にはうす暗い情念の中にスペインの郷土色が色彩豊かに見事に反映されていて、オーケストラの中に隠し味的に
ピアノを加え、そのピアノがマーラーの交響曲第7番「夜の歌」~第四楽章で効果的に使用されていたマンドリンとギターのように
弾力性のあるリズム感をもたらしているその演奏効果には特筆されるものがあるとも感じられます。
バレエ音楽「恋は魔術師」は亡霊や焼きもちや浮気といったドロドロとした怨念というのかほの暗い情念もあったりします。
そのストーリーはあくまで大雑把に書くと、まだうら若いジプシーの未亡人のカンデーラスにカルメーロという若い恋人が
出来たものの、二人の恋にはとある障壁があり、それが何かというと二人が愛を確かめ合う事をしたいのに、それを
成し遂げようとするとカンデーラスの亡き夫の亡霊が出没し、亡霊が焼きもちを妬き二人の恋の行方をことごとく妨害し
邪魔するというものでした。
二人は色々と思案し、カンデーラスの亡き夫は生前は実はかなりの浮気者であり女好きであったことを利用し、
カンデーラスの友人で美人のルシーアに依頼し、ルシーアになんと・・! その亡霊の亡き夫の誘惑をすることとなり、
そして亡き夫の亡霊がルシーアからの誘惑にまんまとはまり、ルシーアにいろいろとちょっかいを出していたら、その隙に
カンデーラスとカルメーロは愛の行為を果たし、二人の愛の誓いが成立したと同時に亡霊の亡き夫はあきらめてしぶしぶと
この世から消え失せて、めでたく二人は結ばれるというお話でもあります。
「恋は魔術師」の音楽で最も有名というか多分誰しもが一度は耳にしたことがあるのが第8曲の「火祭りの踊り」です。

「火祭りの踊り」は亡霊となった元夫を除霊する悪霊祓いの儀式の踊りの場面の音楽でもあります。
ザワザワしたヴィオラとクラリネットの長いトリルは炎の揺らめく様を見事に表現していますし、オーボエの魅惑的な歌も
とても妖しく美しいですけど、そうした物憂げな雰囲気に突如として咆哮するホルンも大変効果的です。
火祭りの踊りの冒頭はヴィオラと低音のクラリネットがひたすらトリルを続け炎がメラメラと燃える様子が見事に表現されて
いますけど、その炎の様子というのは実は除霊の音楽でもあったという訳ですけど、確かにあの妖しい雰囲気は
悪魔祓いにはふさわしい音楽といえそうです。
「火祭りの踊り」は藤田玄播の吹奏楽アレンジ版でもお馴染みですけど、吹奏楽アレンジ版ではなぜか原曲では
ティンパニしかないのに、タンバリン・カスタネット・シンバル・大太鼓もあったりします。
そして冒頭のクラリネットによる長大なトリルというか装飾音符はCDで聴くと難しいようにも感じますけど、
パート譜の上では二音のトリルを多用ということで実はそれほど偽゛術的には難しくないというのは意外でも
あったりしたものでした。
私が中学生の時、その中学校においては給食の時間とか放課後の掃除の時間になぜかポールモーリアの曲がかかる事が多く、エーゲ海の真珠とかオリーブの首飾り・ペガサスの涙・涙のトッカータなどの曲がかかっていましたけど、
その中で当時曲名は知らないのだけど特に印象的で気になった曲が一つありました。
それが「火祭りの踊り」だったのでした。
(ボールモーリアの曲としては「恋はマジック」というタイトルが付けられています)
高校に入学しも吹奏楽部のメンバーに火祭りの踊りを聴いてもらって「このポールモーリアの曲、何て言うタイトルなの?」と
聴いたら、彼は「ひのとり」とか言っていましたので、私自身は恥ずかしながら、約1年ほど、このファリアの「火祭りの踊り」を
ストラヴィンスキーの「火の鳥」と勘違いしてしまう事になったものでした・・
高校の時の吹奏楽コンクールで自分たちのライバル校が「火の鳥」を自由曲として選んでいたので、
「あのポールモーリアの曲を演奏するのか・・」と思っていたら、全然違う音楽が流れていましたので、
誤解の原因となった彼に後で聴いてみると、「俺は確かに火の踊りと言ったはずだ・・」と開き直っていましので
私がもしかしたら、「ひのおどり」と「ひのとり」を聞き間違えたのかもしれません。
どちらにしても恥ずかしい話でもありました・・
吹奏楽コンクールにおいては「恋は魔術師」は最近では滅多に演奏されないようですけど、これまで全国大会では
計6チーム演奏しています。
多くのチームはパントマイム・火祭りの踊りの組合せですけど、パントマイムのいかにもどす黒い怨念みたいな雰囲気と
火祭りの踊りのほのかな情念の組合せは聴きごたえはありそうです。
吹奏楽コンクールでは1981年の城陽中学校が印象的ではあるのですけど、この曲の吹奏楽コンクールにおける
決定的名演はまだ現れていないと思いますので、現在の感覚でこの曲の魅力を再発見できるような演奏の出現に
期待したいものです。
改めて「恋は魔術師」の管弦楽の原曲を聴いてみると、
「三角帽子」の明るさ・庶民の底力の躍動感に比べると、亡霊の男の焼きもちを取り扱った作品だけに、
全編を通じてどす暗さ・怨念・鬱積といったものを強く感じてしまいます。
三角帽子もソプラノが入りますが、前述のとおり恋は魔術師にもソプラノ独唱が加わります。
このソプラノもけだるさと暗さが同居したみたいな感じがして、三角帽子みたいな「スカッ」としたものは少ないというの
が正直な感想ですけど、それがまたこの曲の魅力であり持ち味と言えそうです。
「火祭りの踊り」だけならたまに演奏会のアンコールで聴くこともあります。
大体3分前後の曲で時間的に丁度いいし、曲のコントラストを付けやすいし表情が出やすい曲なので、
アンコールにはうってつけなのでしょう。
「火祭りの踊り」はピアノ版もありますが、これは管弦楽版とは別の意味で魅力があります。
個人的には小山実稚恵さんの演奏がいいなーと思っています。
それにしても男の浮気・焼きもちは困ったものですけど、それが亡霊になってからも続くというのは、本当に男というのは
始末に負えないイキモノともいえそうですね・・
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気になったのでYoutubeで「火祭りの踊り」を原曲と吹奏楽版で聞いてきました。原曲もいいけど吹奏楽アレンジがうまくハマって迫力が増してて良かったです。
バレエ音楽は好きなので、いつか全曲通して聴きたいなと思いました。教えていただきありがとうございます。
スペインは明るいイメージがありますけれど、実はスペインの芸術は内に秘めた暗い情熱を感じるものが多いですよね^^